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おはようからおやすみまで 11

「だ、だ、だからっそれはお医者が許可出してからの話だからっ!お医者がダメって言ったのはダメだって言っただろ⁉」 「なんで?」 「は?」 「なんで許可なんか取らなきゃなの?」 「は⁉だって、お前、子供産んだばっかなんだぞ⁉体調も全然もとに戻ってないのに  」 「なんでそれを医者に決められなきゃなんだよ!」  はたくようにして藪秋の腕を振り払うと、バシンって思いの外大きい音が響いてびっくりしてしまうほどだった。 「オレ帰るっ!」 「シゲル⁉」 「もうヤダ!家に帰るっ」  ベッドから飛び降りようとしたオレに慌てて藪秋がしがみついて邪魔をしてくる。  オレよりもずっと大きくてがっしりとした体に押さえ込まれてしまうと、どうしようもできなくなってしまう。 「なんでオレこんなとこいるんだよっ!」 「なん でって  」  子供 って単語が続きそうだからジタバタと手足を振り回してそれを邪魔し、耳を塞いで出せる限りの大声を上げた。   「あ────っ」 「シ……「あああああああっ」  自分の頭の中に自分だけの音が響いて、それだけでいっぱいになったら藪秋の声も何もかもが聞こえなくなって、そうするとむしろ心の中のざわざわとしていたものが掻き消えて静かになった気になる。  オレを懸命に揺さぶって何か言っている藪秋を見たくなくて、わずかでも耳を塞いでいる手に触れてきそうになったら身を捩って振り払った。  何も聞きたくなかった。  どうしてこんなことになったのか、  どうして子供がうまれたのか、  どうして、藪秋はあの子に構うのか、  どうしてか……それが堪らなく嫌で嫌で仕方がなかった。  診察室のベッドの上で藪秋に抱き締められながら担当医と向かい合う。  初めて見た と言ってもいいのかもしれない。  出産にも立ち会ったし、出産おめでとうと病室まで言いに来てくれたりしていたけれど、しっかりと正面から顔を見たのは今が初めてだった。  中年の、優しく笑っているように見える医者だ。 「こんにちは、改めまして、僕は担当医の瀬能と言います」 「……」 「よろしくお願いします」  返事もできなかったオレに代わり、背後の藪秋が頭を下げる気配がした。 「少し、不安があったかな?」  瀬能は自分の身長をよくわかっているからか、丸椅子を引き寄せて腰を下ろす。  そうすると診察台に座っているオレと視線が合って、見下ろされるような圧迫感はずいぶんと和らいだ。 「妊娠に気づいてなかったみたいだから、君にとっては晴天の霹靂だったよね」 「……」 「いきなり痛いし、いきなり出産だし、いきなり子供って言われても、困っちゃうよね」

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