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おはようからおやすみまで 21
カクカクと震える足では逃げ出せなくて、詰め寄られるに任せて思わず倒れ込んだ。
「ナニしたんだ!」
「 は ?」
ナニをしたのはあんたらだ とは言葉に出せなくて、ぶるぶると無様に首を振る。
「お前、ちょっと面かせ!あいつらにも謝れ!」
「は、?あ、や、 」
「学校行っても休学とか言いやがるし!」
首元を掴まれ、ぐいと乱暴に引きずられてしまうと、オレなんかじゃ抵抗すらできない。
固く踏み固められた公園の地面は、上に砂があるせいか踏ん張りがきかなくて、そのまま荷物のように引きずられて行く。
「や、せ、せ ぱ なに、なんで 」
「うるせぇ!お前自分が何したかわかってんのか⁉」
「は、 はぁ? あ、の、オレ、オレ っ」
睨むようにオレを見下ろしてくる目は……
オレを押さえつけるαの目だ。
「ゃ、 や、で、す……や、やだ」
「っ……暴れんな!」
藪秋のとは違う、ただただΩをそう言う生き物だとしか見ていない目だ。
「家も引っ越しやがって!」
「ひ 、は? ゃ」
力ずくの行為はすべてがあの時を思い起こさせて、オレは首元が締まるだけじゃない息苦しさにひゅ と喉を鳴らした。
伸びてきた幾つもの手が、オレを押さえつけて思うように蹂躙してくる感触はこの身に刻まれてしまっているようだ。
「 ────っ!」
上げた悲鳴は甲高過ぎて自分の耳には聞こえなかった。
空気を裂くような声は先輩にはなんの影響も与えなかったようで、ただただ首の苦しさだけが増す。
「ぁ゛っ」
引きずられて締まる喉元に声が途切れる。
このまま以前のように連れ込まれて、こいつに好き勝手されるんだろうかと思うと吐き気と共にどう表現したらいいのかわからない感情が込み上げた。
泣きじゃくりたいような諦めのような……でも、それでいてどうしても、ただただどうしても……ぎこちなく子供を抱っこしてへらりと笑っている藪秋に会いたいって、思って……
「ぁ、ああああああ゛っ!」
「っ⁉うせぇっ!」
先輩の拳が振り上げられて、殴られるんだって思って反射的に目を固く瞑った。
痛みを覚悟して奥歯を噛み締めていたのに、ご って音はしたのに衝撃は全然来ない。
逆にオレを掴んでいた手が離れたのか、すっと空気が肺へと入ってくる。
「舐めたことしてんじゃねぇぞ、クソガキ」
聞き馴染んでいたオレですらぞくりと背筋を震わせる声だ。
低い犬の唸り声にも似た威嚇の声は、一般人が出すにはあまりにも恐ろしさを含んでいる。
「あ ぃ」
喉が締まっていたからか、藪秋の名前を上手く呼ぶことができなかった。
でも、藪秋はそれで十分わかってくれたようだった。
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