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おはようからおやすみまで 22

 ちらりとオレの方を見ると、険のある顔にさらに凄みを聞かせて殴り飛ばされた先輩へ手を伸ばす。 「ひ っ」 「てめぇっまだわかってねぇのか!」  咆哮のように怒鳴り上げたために先輩だけなくオレまですくみ上ってしまって、二人してぺたんと尻もちをついてしまっていた。  そんなオレに構うことなく、藪秋は先輩の首根っこを掴むとぐいと引き寄せて、オレに聞こえないように何事かを告げているようだ。  すぐ傍にいるけれど、藪秋の声が低いと言うこと以外は何もわからなくて、ぶるぶると震えながらその様子を見守る。 「 ぃ、や  だ」 「そうかよ」  薄暗い中でもはっきりと青くなったと分かる顔色で先輩は首を振るが、応える藪秋の態度はオレに見せたこともないほど冷ややかなものだ。  先輩を突き飛ばし、逃げようとする後ろから蹴り飛ばし……  オレが呆然としている間に先輩はあっと言う間にボロボロになって、地面にうずくまるようにして動かなくなってしまった。 「 あ、あき……?」    屈強な背中とその足元で倒れる姿を交互に見て問いかけたオレの声は震えていて、傍から見たら怯えているように見えたんじゃないかって思う。  だけど、拳を震わしながらこっちを振り返った藪秋に見つめられた瞬間、どうしようもない嬉しさに体が跳ねた。  嬉しくて、  嬉しくて、  震えて伸ばした手に駆け寄った藪秋に抱き締められて、これまでで一番の安堵を感じる。 「この  バカッ!何やってんだ!」 「 ────っ!」  逞しい腕の中でほっとなった瞬間に怒鳴られて、オレが何をしたのかを思い出す。  突然、藪秋を置いて飛び出して……  嫌な気分にさせられて、怒らないはずがない。 「自分の体のこと考えろっ!」 「ぅ……⁉」 「どんだけ体に変化があったと思ってんだ⁉命かけた後なんだから養生しろよ!本調子じゃないのに飛び出したりして、どんだけ心配したと思ってるんだ!」 「う……」    怒られるんだって思ってたのに藪秋から言われた言葉は体を心配する言葉で、拍子抜けしてしまった。  心の中の覚悟をしていた部分がふっと抜けてしまったら、もう後はただただ追いかけてきてくれた藪秋に申し訳なさだけが残る。 「  あき  」 「待て、怒り足りない」  そう言うとぎゅうぎゅうと腕に力を込めて抱き締めてくるから、苦しくて苦しくて反射的に逃げるように身を捩った。 「逃げんな!怒ってんだっ!」  耳元で叫ばれた声の割に、オレに頬を摺り寄せてくる力は柔らかくて……  煙草を吸わなくなったからか藪秋自身の匂いが強く香って目が回りそうだ。  

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