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おはようからおやすみまで 23

 濃くて、まったりとした藪秋の匂いは、深い深いコーヒーの香りのようにほろ苦くて刺激的に感じるけれど不思議とそれが心を落ち着かせる。  だから、それに包まれているとたまらない至福感に包まれてしまう。 「俺は怒ってるんだからな!黙って罰を受けてちょっと反省しろ!」  安心できる力強い腕の中に囚われることの、何が罰なのか……  泣きじゃくるオレにはさっぱりわからなかった。  呆れ顔の見え隠れする医師の診察を受けて、オレは元の病室に戻されていた。  結局オレの飛び出した時間なんて、多く見積もっても数時間てところで……子供の癇癪としか思えないお粗末な結果だ。  あれほど顔を合わせることはできないって思っていた藪秋に抱き締められている。  番候補が傍に居て落ち着くならって、夜は完全看護の病院だって言うのに藪秋は泊まることを許された。 「ほら、ちゃんと俺がいるから寝ちまえ」  そう言ってオレの頭を撫でる手の甲は、先輩を殴り倒したせいで痣になっているようだ。  オレは「先輩はどうなった」の言葉を飲み込んで、促しのままに頭を藪秋の膝につける。     公園の地面に突っ伏したままだった先輩に、死んでしまったんじゃ?ってひやりとしたものを感じるようになった頃、藪秋の部下たちが大勢駆け寄ってきて先輩を引き摺るようにして連れて行ってしまった。 「おせぇぞおめぇら!弛んでんじゃねぇのかっ⁉」  鼓膜をびりびりと震わす怒声に、オレは身をすくめるだけで済んだけれど、部下の人たちはそうはいかなかったらしい。  ひぃひぃと泣きそうな声を上げながら、藪秋に地面を擦りつけるようにして謝って……  そして、先輩と共に中身が覗けなくなっている黒いワンボックスに乗り込んで行ってしまった。  見ただけで不安感をあおるような黒い車に、オレは先輩の連れていかれた先を聞く気が起きない。  胸の奥につっかえるものはなくもなかったが、オレのそれは藪秋がすべて処理してくれていたのだと理解したから…… 「あき」 「どうした?」 「   ────あきは、分かってんだろ?あんた、実はめっちゃ頭いいもんな」  そうぽつんと零して、白いシーツの上にできた影を追いかけるように指を伸ばした。  けれどもちろん、それを捕らえることなんてできるはずもなくて。 「シゲルが可愛いってのはわかってる」 「ちょ  そう言うんじゃなくて  」  藪秋の軽口に軽快な返事を返すことができなかった。  いつものようにふざけ始めないオレに、藪秋はどう思ったのか大きな手でオレの頭を撫で始める。    

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