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おはようからおやすみまで 25
「お前の髪な、実は黒じゃねぇんだってな」
地肌をくすぐるように指先を髪の中に入れられて、オレは思わず身をすくめてぎゅっと体に力を入れた。
「タマコの髪なぁやぁわらかそうなうっすい色なんだよ」
「…………」
それがどうした。
正直、オレの返事はそれ以外ない。
タマコは、オレが望んだわけでもない、しかもあいつらにレイプされてできたような子だ。
間近で直視したことなんかなかったし、オレの体が汚されてる証拠を見せられているような気分になるから、意識して視界から締め出すようにしていた。
「俺のは、かったい黒髪だろ?」
「……」
そろりと見上げた先にあるのは、黒々ツヤツヤとした髪だ。
そこまで伸ばしていないから分かりにくいけれど、きっと長髪にしたらさらさらとしそうだと思えてしまう。
「タマコの髪は、シゲルに似たんだなぁって」
「そん……なの、そりゃ……」
父親はわからないけど、産んだのはオレだってはっきり分かっているんだから。
「睫毛がさ、くりんって上向いてるんだ」
「?」
目は悪い方ではなかったけれど、遠目ではさすがにわからなかった。
「シゲルの目によく似てると思った。くりっとしてて、眩しそうにこっちを見上げるとちょっと青く見えて」
「だから……だって、あの子は 」
「鼻はペタンコすぎてわからねぇけど、まぁどっちに似たってそんなに高くはならねえさ」
「ど っちって 」
「タマコ、足なげぇんだ。そこはオレに似たんだ」
藪秋の言葉があまりのも戸惑いのないものだったから、オレは一瞬正気なのかと眉間に皺を寄せてしまう。
今のオレは、きっとひどく不快な顔をしている。
「唇の形はシゲルだな、すげぇ可愛い、つんと拗ねるみたいな口をしてる。でも笑い顔は俺そっくりなんだって看護師さんが 」
「っ も、もういい!うるさいっ!うるさいっうるさいっ‼あの子とあきが似てるわけないだろっ!あの子はオレが オレが っ」
レイプされて産んだんだ の言葉はどうしても出なかった。
空気を裂くような泣き声で喉が潰れて、甲高い癇癪を起したような悲鳴だけが喉の奥からほとばしる。
「シゲル」
はっきりと名を呼ばれて、ぷつんと糸が切れたように項垂れると、変わらない優しい手つきがオレの体を包み込んだ。
「それが、どうした?」
「 ────っ」
「タマコは俺達に似ているんだ」
「そんっ そんなはずないっ!仮に今似てたと思えても、成長したらオレを襲った誰かに似てくるに決まってるっ」
「そんなら、その時に考えようや」
「なに さっきから、あきは何言ってるの⁉」
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