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おはようからおやすみまで 27

「いいに決まってんだろ」  鼻を擦りつけると、ふわりと藪秋の香りが肺を満たす。 「朝から晩まで、ずっとオレの傍に居てくれ」  オレをしっかり抱き締め返してくれる腕にそう言うと、照れくさそうな返事が返った。  オレが初めてタマコを抱っこできたのはそれからずいぶんと経った頃で……勇気の出ないオレを藪秋は辛抱強く待っていてくれた。  藪秋はああ言ってはくれていたけれど、タマコの中にあいつらの面影を見つけたらと思うと遠目に眺めることすら恐ろしかった。  けれど毎日毎日、藪秋が抱っこをしては毎日の変化を教えてくれたから。  よくそこまで観察できるものだと、こちらが呆れてしまうくらいの報告はでれでれとしていて……  そう言うのが積もって積もってやっと勇気を出すことができた。  ギクシャクと腕の中に収めたタマコは自分が考えていたよりもずっとずっと小さくて可愛かった。   「    わ。ちっせぇ……」 「これでもだいぶ大きくなったぞ?」  そう得意げな顔をされてしまうと、会いに行かなかったのは自分だって言うのに藪秋に対してズルいって思ってしまって、あどけなく笑うタマコに対して苦笑が漏れてしまう。  確かに、笑い顔はでれでれとタマコに笑いかける藪秋にそっくりだ。  オレ似の薄い色の髪に、実は複雑な色味の目に、それから拗ねたような唇に……  どうしてだか、オレ達以外には似ていない。 「こんな……っ」  ず と鼻水を啜ると、藪秋が驚いた顔をして飛び上がる。 「どうした⁉」 「こんなちっさくて……大きくなれんのかなぁ って思ったら、不安って言うか……怖くて……」  タマコが手を広げてもオレの掌にすっぽり入ってしまうくらいだ。 「おっきくなれなかったら……どうしよう……」 「安心しろ、あっと言う間にシゲルを見下ろすようになるから。子供ってのはそう言うもんだ、泣くな泣くな」  藪秋がちょこちょことくすぐるように小さな手に触れるから、タマコがきゃあきゃあと笑い声をあげて……  その声は小さな赤ん坊が上げたとは思えないくらい大きくて力強い。 「わ  」 「なんの問題もない超健康優良児だ」 「あっ……力つよ  っ」  簡単に折れそうなくらい細い腕だと言うのに、暴れて突っぱねられるとこちらが力負けしてしまいそうなほどだ。 「な?」  得意そうに藪秋に笑われて……やっぱりちょっとズルイって思いながら、それでもオレも笑ってしまう。  二人の間で幸せそうな笑い声を上げるタマコを見ていると、オレ達は家族なんだと感じることができた。 END.  

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