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落ち穂拾い的な 青田買い
「──── と言うわけで、この借金はこいつらが払うように整えてあります、アルファ数人がかりなのでじきに払い終える算段です」
書類をデスクに置くと、鋭い目が興味なさそうにそれを見遣る。
俺自身、面構えが柔い方じゃないがホンモノは全然違う……なんてことを言うと、もうそんな稼業の奴らはいない、と言い返されるのだろうけれど。
とは言え、見習いに入っていた組が潰れた時に入院していたのは、今となっては良かったのかもしれない。
背中に背負うものを背負っていたら、今ほど軽々しくシゲルと結婚することはできなかっただろう。
「そうか」
「と、言うわけで育休貰います」
「…………」
大神が煙草を咥えようとした口をぽかんとしたままこちらを見上げる。
「ガキ産まれたんですよ」
タマコの顔を思い出して顔の筋肉を緩めると、傍に居た直江にごほんと咳ばらいをされてしまった。
俺を睨みつけながらずずいと近寄ってくる直江の気配にビビったが、大神の前にいる以上無様な姿は見せられない。
「藪秋!そんなことを急に言われても困るってわからないのか⁉第一結婚をしたなんて聞いて 」
「突然だったんですよー。俺もびっくりで」
「驚いているのはこっちの方だ!どうするんだ祝儀とか用意してないぞ!」
「ソッチの話かよ」
うるさく言いながらも祝ってはくれるようだ。
「どう言うことだ」
大神の声は静かで深く、そして誤魔化しを許さない声だった。
「……俺の会社んとこの…… ──── 」
俺はできるだけ整理整頓した情報を大神に伝える。
借金をしていた母子家庭の子供がΩで気になっていたこと、
制服を脱いだら口説こうと思っていたこと、
母親が子供を置いて飛んだこと、
それから、なし崩しに関係が始まって子供が生まれたこと。
「そうか」
「ってことで扶養手当とか育休とかまるっとください」
「いい加減にっ 」
「かまわん。規則は規則だ、ただしリモートで出来る仕事はして貰う。いいな」
「へ⁉」
「大神さんっ」
お互い初めての子供で手探り状態だし、時折不安定になるシゲルのことを思ってダメ元で聞いただけに、大神からあっさりと許可が出た時は正直驚いた。
「あ、ありがとうございます!」
ダメだろうなーって気持ちだっただけに嬉しくて、思わず大きな声で礼を言って拳を突きあげる。
「詳しくは直江と話を詰めろ。お前には今後、俺の周りに就いてもらう」
「は、はいっ」
「他にはないか?」
「あ!うちの息子、将来有望そうですけどいかがですか⁉」
「書類と履歴書、推薦書とそれから面接をクリアしろ」
「会社じゃなくてですね!社長のお子さんに女の子が生まれたら、いかがです?」
タマコの利発そうな顔と、赤ん坊にしては長い手足、活発に動く姿を見ていると将来、社長令嬢と結婚して逆玉も可能だろうと思わせるオーラがあると思う。
そして目の前の俺の上司は幾つもの会社を経営し、更にそれらを大きくしていく手腕を持っている男だ。
その傘下に……いや、娘婿に入っていればタマコの人生安泰だろうとゲスい部分が頭を覗かせる。
「予定もないのに気楽なものだな」
「予定ないんです?姐さんは?」
そう言ってから、直江の手伝いをしている少年がお茶を取りに出て行った扉を見る。
絡みつくように、大神の香りを纏ったΩの少年……
「ない」
ぴりっとした気配にこれ以上の立ち入りは危険だと本能が告げた。
ここが、引き際だ。
「まぁ、その、経験からなんですが。ここまで待とう とかまごまごしてたら、取り返しのつかないことになりますよ」
卒業を待とう なんて呑気なことを考えていたから、あいつらにシゲルをいいようにされてしまった。
それでシゲルを責めるだとかシゲルが汚れてるとか、そんな感情は一切ないが、シゲルを怯えさせたあいつらを許すつもりはない。
一生、地獄に落とし続けてやる。
「オメガの首は噛める時に噛んでおいた方がいいです」
軽い言葉ではない、重苦しい気配を漂わせる物言いに、大神は緩く手を振ってみせるだけで答えた。
END.
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