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赫砂の失楽園 2
思わず口に出しながら、それでもこうしてものを与えられることに……わずかに残っていたプライドのような何かを摩耗させられているのだと時々思う。
「親の責任って何かな」
まったくの他人である店長ですらこうして気にかけてくれていると言うのに、オレの親は子供を五人産むだけ産んで帰って来ない。
前回帰ってきたのは末っ子を連れてきたのが最後だった。
あれ以来……生きているのか死んでいるのさえわからない。
店長はそんなオレを雇って、何くれと気にかけてくれるいい人だ。
「いい人 なんだけど」
給料を上げるのには限界があるから、こうして余り物と言う体でいろいろとくれたり、お米券とか作りすぎたからと総菜をくれたり する。
食べ盛りが多いから助かりすぎるほど助かっているのは事実で……でも、それはオレを「放っておけない子」にしてしまって、決して対等にはなれないと言う事実をオレに突きつける。
店長にとってオレは、それ以上でもそれ以下にもなれない。
「はは、皮肉」
小さく独り言を言いながら紙袋に詰めるだけ詰め込んで、どう持って帰るかは後で考えることにした。
下手なことを言うとタクシーを(もちろん費用は店長持ちで)呼ばれるんじゃないかって思うから、悩んでしまうところだ。
「ハジメー?そろそろ戻ってくる?」
ガチャリと扉を開けると同時に尋ねられて、「ノックは?」って返しながら肩をすくめる。
ふわふわとしたピンク色の頭の中は悪くないはずなのに、こう言う些細なことは覚える気がないようだ。
「えへ、今度する」
「今度じゃダメだよ」
「じゃあ、今叩く?」
猫の手のように拳をにゃんにゃんと動かされて、その愛らしい動きに毒気を抜かれて「今度でいいよ」と返す。
そうするとアーモンド型の綺麗な目を細めてくふふ と笑い返された。
客からの注文を受けながら、目を眇めて店長を眺める。
そうすると体の周りに柔らかそうな……綿菓子のようなものが見えて、ふわふわと心地よさそうだ。そのふわふわと気持ちの良さそうなものはピンクの髪の彼にもわずかに絡まっていて……
ぱちぱちと目を瞬いてそれから目を逸らす。
「 で、どうかな?」
視線を目の前の客に向けると、銀縁の奥からにやりとオレを見つめ返している。
やはり同じように目を眇めてやると、この常連客からもふわふわとしたものが見えて……ただしそれはオレの方へは流れてこない。
つまりそれは、この客はオレに興味はないってことだ。
「恋人にヤキモチ妬かせたいならもうちょっと可愛らしい子を選んだ方がいいんじゃないですか?」
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