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赫砂の失楽園 3

 つんと言い返してやると、客は驚いた様子を見せた後に破顔して立ち上がった。 「はは。そうしようかな」  そう言いつつ財布を取り出すその懐からわずかに見えたのは違う色のふわふわだ。それは中から零れているように見える。 「そんなこと、必要ないと思いますよ」 「…………」  指先で財布を指差してやれば、怪訝な表情でその中身を覗く。  訝しむように財布の中を見て……それから小さく口の端を歪めた。 「敵わないなぁ。君、占いとかやるの?」 「いえまったく」  銀縁の向こうの眉をちょいと歪めて、客はオレの言葉が本当かどうか知りたいようだったが、占いなんてしてないんでそうとしか答えられない。 「じゃあー霊感あるとか?」 「ないですよ」  答えながらふふ と声を出してわざと笑ってみせる。 「見えたら怖いですから」  含みを持たせた言葉遣いに気づいたのか、客は肩をすくめてから帰って行った。  体にまとわせたふわふわをキラキラとさせながら…… 「  と、悪い。あの先生に何か言われなかったか⁉」  慌ててたのか、胡散臭いおねぇ言葉は鳴りを潜めている。  自分も接客していただろうに、飛んできてくれたのかちょっと嬉しかったけれど、きりっと表情を作って「何もありませんでした」と返した。  心配性だから、オレの言葉にちょっと疑うようなふりをしていたけれど、オレが何事もなかったように作業に戻るとほっとした様子を見せる。  さっきの客は、好みの子を見つけた途端口説き出すので有名な人だった。  本命の恋人がいるのは周知の事実なので、それを分かって口説いてるし、それを分かって乗っかってくる子しか相手にしない。  オレもピンク頭の彼も、それに店長の元恋人も漏れなく口説かれたことがあるのだから、好みなんてあってないような人のようだ。    とは言え傾向はあるようで、良く口説かれる店長の恋人たちは、華やかな雰囲気でいずれもアーモンド型の大きな綺麗な目をしていて、それに加えて強く抱き締めると折れてしまうんじゃ……って思わせる華奢な体型が共通していた。  オレはと言うと、切れ長な と言ってしまえそうな目つきに(しかも時々眇めるから目つきは良くない)、華奢とは言い難い体型のせいか口説かれる確率は低い。  つまりオレは、店長の好みからも銀縁眼鏡の客の好みからも外れているってことだ。  なんともやりきれない思いを抱えながら、心配そうにチラチラしてくる店長に大丈夫ですと告げた。 「あんまりしつこいようだったらオレから注意もできるからな」  頼ってくれ と言われて、オレと店長の天秤はますます傾いていった。  

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