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赫砂の失楽園 5
普段口にできないようなお菓子もあったから、ちびっこ組は喜ぶだろうと思うと嬉しくなる。
「兄貴」
二人の騒ぎを聞きつけてやってきたのは流弐(りゅうじ)だった。
次男だけあって下三人とは違う落ち着いた態度だったけれど、いつもよりそわそわとしている様子だ。
「店長さんにお礼言っておいて」
「うん」
はしゃぐだけじゃなくて、ちゃんとこれをくれた店長にも気遣えるなんて、いい子に育ったと思う。
「良伍(いくみ)は?」
「もう寝ちゃってる、保育園でずいぶん走り回ったんだって」
出迎えがないのはちょっと寂しいけれど、四歳の子が起きているにはずいぶんと遅いから仕方がない。
「そうだよな……肆乃ももう寝てないとだろ?」
って注意されるのがわかっていたからか、肆乃はささっと部屋の方へ滑り込んでしまった。
「だって、お兄ちゃんにおやすみなさいしたかったんだもん」
ちらっと覗く可愛らしい顔で言われてしまうと反論なんてできなくて、「おやすみ」って笑って返す。
騒がしくも、今日も平穏に一日を過ごしていたんだと分かってほっと胸を撫で下ろした。
「いつもこんなに貰っていいのかな……」
そう言いつつも流弐の手は開封作業をこなしていく。
「きちんとお礼を言っておくから、大丈夫だよ」
気にすんな と流弐の頭を撫ぜて、取ってつけたようにある小さな風呂に向かおうとすると、参希がちょこちょこと後ろをついてくる。
「どうしたー?もうお前らは風呂入っただ……ろ……」
手に持たれているのはプリントだ。
わら半紙に何が書かれているのかはわからないけれど、なんとなく良い知らせでないことだけは受け取る前に分かっていた。
「あの 研修の 」
さっき玄関に迎えに来た時とは明らかにテンションの違う物言いに、思わず額に手を当てそうになる。
「研修?」
「うん。……」
そっと出された付箋の貼られたプリントには日帰りの研修旅行の詳細が書いてあり、末尾の返信提出日はとっくに過ぎていた。
「返事しなかったら……行かなくてもいいかもって思ったんだけど 」
受け取ったプリントに目を通せば、この研修旅行用に費用がかかるとあり……
「先生が その、 」
もご と言葉を詰まらせるのは、参加の不可を聞いておきながら絶対に参加しなくてはいけないと言われたからだろう。
参希はこの参加費が家の負担になると思ったことは手に取るようにわかる。
「…………」
一般家庭にとっては大したことのない金額であっても、うちにとってはその金額は大きな出費なのは確かだった。
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