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赫砂の失楽園 6

「  っ、もっと早く言えってば!銀行しまっちゃってるだろ?手数料もったいない」 「……ん、ごめんなさい」  プリントにつけられた付箋には、明日には費用を持ってくるようにと無情な文字で書かれていて…… 「しょうがないなぁ、ちょっとコンビニ行ってくるよ」  ぐりぐりと参希の頭を強めに撫で繰り回してやると、頭の下でジタバタと小さな体が暴れる。   「風呂に入る前で良かったよ、先に寝てるんだぞ」  何か言いたそうにしている弟から目を逸らして、傍で話を聞いていた流弐に目配せをした。  そうすると一瞬物言いたげな顔をして……こくんと頷いてくれるから、ほっと笑って玄関に行く。 「……気をつけて」  ちょっとコンビニ行くだけなのに大袈裟な の言葉は飲み込んだ。  流弐は、きっとオレが何をしに行くか理解しているだろうから。  眇めた目を路地裏から外に向けると、行き交う人々が靄を纏う。  じぃ と注視して、その中から良さげな人を見つけようとするが良さげな人物は見当たらなかった。 「ふぅ……もう少し見てみるか……」  オレには、何かが見える。  とは言え幽霊とかそう言ったものではなくてもっと現実的な言い方をすれば……フェロモンだ。  他の人には見えないらしいが、オレには人のフェロモンが見える。  この世には人口の大半を占める普通の男女と、次に人数の多いβ性の男女、それからさらに割合は少ないけれど支配者階級のαの男女、それからもっとも少ないΩの男女の八種類の性別が存在する。  オレは、その中でβだ。  本来なら、フェロモンにあまり左右されないはずの性別なのに、どうしてだかオレはそれを敏感に感じ取ってしまう。  βの中でもΩ寄りの人間に見られる特徴だ。  もっとも、だから何だと言う話で、Ωのように発情期があるわけではないし、ただ他の人間が匂いと表すソレを目で見えるだけなのだけれど…… 「……アレにするか」  けれどその人のフェロモンが見えると言うのは存外使い勝手が良くて、こうして活用させてもらっているわけだ。  ほんのりと緩んで、そして発散したいなって思っているフェロモンを見つける。  そのことに抜群に役に立った。  「おにーさん」と声をかけた微妙な年齢のオジサンは、最初警戒していたようにフェロモンを引っ込めていたけれど、オレがその誘いをしているのだと分かると滲ませるようにフェロモンを出し始める。  正直、無性やβの人間のフェロモンはわかりづらいけれど、それがよかった。  一度見かけたαのフェロモンなんか、思い出しただけでぞっとしてしまうほど濃く、重く、恐ろしかった。

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