594 / 714

赫砂の失楽園 8

 なぜなら、満足できなかったといちゃもんをつけられることも少なくなくて……  口の中に吐き出しておいて何を言うのかと思うけれど、下手な奴に当たるとそうやって金を返せと言い出してくる奴もいる。  だから、オレは目を眇めて相手がどう言う人間かを読み取ってから声をかけるのだけれど。   「 ぅ、うぅ゛  っ」  喉を突くような存在感が口の中にさらに広がって、どぷりと咥内に青臭い液体がぶちまけられる。  幸い薄いゴムが一枚隔ててくれてはいるが、口の中で肉の跳ねる感触や飛び出す精液の感触は遮りようがなくて……  それを平静を装いながら処理してオジサンを見上げた。 「  、  、」  オジサンは今は肩で息をして、目はとろりと気持ちよさそうにしている。 「それじゃ。ご利用ありがとうございました」  営業スマイルでニコっと笑い、放心したオジサンから距離を取った。 「  ゃ、きみ、……あの、もっと出すから、その、  」  出して項垂れた股間を所在無げにいじりながら、ふらりと体がこちらに傾いでくる。  倒れるかと思ったが、よたつくように足を出してこちらに近寄ると、今度は財布から何枚かの万札を掴んで見せてきた。 「お金、もっとあげるからさ。  ホテル、どう?」  紅潮した顔と興奮で荒い息。  年齢的に、一度出してしまえば落ち着くだろうと思っていたのは、オレの間違いだったらしい。  明日、参希に持たせる分の金さえ手に入れば……と思っていたから、それで満足しそうな客を選んだはずだった。  けれど、改めて眇めるようにしてオジサンを見てみると、最初に見た時よりもねっとりとしたフェロモンが垂れ流されていて…… 「幾ら?」  ぐ と言葉に詰まる。  やらない と言ってしまいたかったが、今月の残りの日数と財布の中身を考えるとまた金策に来なくてはいけないのは確実だった。  気まぐれのように時折口座に入る親からのわずかな金なんて頼りにできないし、少しでも稼げるならそれに越したことはない。  ……けれど、そんなオレを慮って何くれと気にかけてくれる店長の姿が脳裏にちらつく。 「もう一回、口じゃダメですか?」 「えぇ⁉」  小さな子供が不服の時にあげるような大きな声。  自分の意見が通らないとすぐに不機嫌になる、自分で自分の機嫌を取れない人間の特徴だ。 「……君さぁ、お金いるんでしょ?だからこんなとこでおっさんのチ〇コ咥えてうまそうにしゃぶってたわけで」 「は⁉  ちょ  」  人気のない路地裏とは言え、そんなに大きな声を出されてしまうと外にまで漏れてしまう。 「ちっちゃいお口でザーメンくださいってねだって射精させたの君でしょー?」 「ちょ、声を、小さく   」 「それともおっさんのチ〇コ舐め回すのが趣味なだけなのー?」 「違いますっ」  

ともだちにシェアしよう!