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赫砂の失楽園 11
一歩近づくごとに強くなる気配に、身はすくむのに足が止まらない。
熱い、
いや、暑い空気、
それから、
「 いい匂い」
経験したこともないのに、南国の匂いだと感じた。
オレのことを心配して起きて待っていてくれた流弐が、ぽかんと驚いた顔を見せた。
たぶん……オレはなんとも言えない顔をしていたんだと思うんだけど、もうこれはどうしようもない。
「な、な、な……元いた場所に返してこいよっ」
ビッと指差した先には……異国の男。
オレの肩に寄っかかって辛うじて立ってはいるが顔色が悪くて、手を離せば途端に倒れ込んでしまうだろう。
「や……そうなんだけど 」
路地裏でうずくまっていたのはこの男だった。
明らかに異国の顔立ちをした、浅黒い肌の金髪イケメン。
「何考えてんだよっ拾うのは動物までにしろよっ」
「っ そ、だけ、ど 」
「参希たちにも拾ってくるなって言ってただろ⁉兄さんが守らなくてどうするんだよ!」
「面目ない……とは おも うん だけ ど」
言葉が途切れ途切れになる。
なんとかここまで連れてはきたものの、自分よりはるかに大きな男の脱力した体は重くて……
必死に声をかけながら連れてはきたが、オレの体力はもう限界だった。
それでなくとも一戦頑張ってきたところだったし、足はガクガクだったからもう限界とばかりにその場にへたり込んだ。
「ちょ、兄さん⁉︎」
「ごめ あとでいろいろ聞くから、とりあえず休ませて……」
狭い玄関に崩れるようにして座り込んでしまったオレを、流弐が慌てて受け止める。
崩れてしまったオレを男の下から助け出して、流弐は眉間に深く皺を寄せた。
兄弟ならではの、不愉快さを隠しもしない表情に苦笑しながらポケットの中から皺くちゃのお札を押しつける。
「とりあえずこれ渡しておくから、参希に渡してあげてね」
「…………」
それがどう言った経緯で手に入れたのか、うっすらとでもわかっている流弐は苦い顔をさらに苦くさせながら受け取り、こくりと頭を下げた。
「……それで、この男は?」
「仕方なかったんだ……倒れてたんだから」
「だからって、警察とか救急車もあっただろ⁉︎」
「そう……だけど……」
歯切れの悪いオレに流弐は不満そうだったが、自分でもらしくないと思える行動だと自覚はあるので、ただ黙って俯く。
どうして?
なぜ?
疑問は幾らでも出るのだけれど、答えを出すことはできなかった。
ただ、あえて形にするならば……気にかかった だろうか?
オレのその様子を見て流弐はそれ以上の言葉を続けず、何か物言いたげな顔のまま引き下がってくれる。
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