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赫砂の失楽園 12

 これが参希だったら自分のすっきりする答えが返ってくるまで質問攻めにされただろうけれど、そこはさすがに高校生だ。  オレのことを慮ることのできる成長を、ちょっと嬉しく思ってしまう。 「……ぅ」  小さな呻き声に、さっとそちらに視線を向ける。  部屋の明かりに照らされて、やっと男の顔をはっきりと見ることができた。    彫りの深い顔立ちに理知的な太い眉、目の色は閉じられていてわからなかったが、彩るまつげは上よりも深い金色で、触れなくてもわかるような官能的な唇は今は閉じられていて、どんな心地の声なのか想像するしかない。  見れば見るほどただただ怪しい男だったけれど、どうしてだかこの男から目が離せない。  普段ならば、道端に倒れているような男を連れて帰るなんて正気じゃない!と言うだろうに、どうしてだかこの南国の雰囲気をまとった男はオレの心に引っかかりを残すから…… 「その男、どこに寝かす?」  ぼんやりと男を眺めていたオレに流弐が声をかけてくる。  男に対していろんな想像をするのは自由だったが、現実はもう深夜で流弐自身も休みたそうだ。   「あ、えっと……じゃあ、オレのところに  」    それでなくても狭いアパートで、兄弟ぎゅうぎゅうになって寝ているのだ。  肆乃と伍良を寝かせている部屋の方に寝かせるわけにはいかないから、自然と居間の方に寝かせることになる。  けれどここも布団三枚がぎゅうぎゅうに敷かれている状態で……  空いているのはオレがいつも寝ている台所との境目の布団くらいだ。 「兄さんはどこで寝るんだよ」  当然の疑問を投げかけられて言葉に詰まる。 「風呂に入ってる間に考えるから」  兄弟の長男としては無責任な言葉だっただろうが、今のオレが考えつくのはそれぐらいのものだ。  それに今はいろいろと考えるよりも、とにもかくにも体についたあのおじさんの匂いを流してしまいたかった  ホテルでシャワーを浴びて帰ってくれば水道代の節約にもなっただろうが、質の悪い客だった場合は風呂に入っている間に金を取り返されたり、荷物を漁られたりすることがある。  だから、客が先に部屋を出ない限りはいつもそのまま帰ることにしていた。  汚い体のまま、帰りつきたくはないんだけど…… 「じゃあ後頼んだ」 「  わかったよ」  オレと同じように眇めるようにして人を見る癖のある流弐は、肩をすくめて見せた。     弟たちの入った後の風呂はもうぬるまってしまっていたが、夏の時期だからわざわざ沸かし直す必要はなかった。  むしろそれぐらい温い方がさっぱりとして頭がはっきりとする。  そうなると、ますます不審な男を拾ってきてしまったことに対して、なんてことをしてしまったのかと言う気持ちがふつふつと湧いてきてしまう。

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