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赫砂の失楽園 13
大急ぎで風呂場を出る。
流弐の言い分が正しいのはよくわかっている。
オレが成人しているとは言え、我が家は子供ばかりの家庭で……
この体格の良い男が、犯罪を犯そうと思えば、好き勝手できてしまう。
兄弟のことを考えない身勝手なことをしてしまった と思うのに、体を拭くのもそこそこに戻った居間に寝かされている男を見てしまうと……
「わかってる……充分わかっている。充分わかっているのに……」
目を開けないこの男の姿を見ると、心のどこかにじわじわと何かが滲み込んでくる気がする。
「………………」
雫の落ちる前髪の間から目を眇めて男を眺める。
そうすると、さらさらと小さな光が漏れ出して、砂粒のように男を彩って……
古びたアパートの雑然とした部屋なのに、それに照らされたそこは別世界のように見える。
目を瞬かせれば消えるそれは、明らかにオレが今まで見てきたフェロモンとは異質のものだった。
いや、確かにフェロモンではあったのだけれど、こんなものをまとう人間を今まで誰一人として見たことがない。
「…………」
まるで、夕日に照らされた砂漠の砂のような……
台所の壁に背中を預けて座り込みながら、いつまでも見ていたくなるようなその美しい光を見つめていた。
本能で感じる。
それは南国だ。
熱い風と砂の匂いそれから時折混じる濃い花の匂いと力強い大気の気配。
ここではない、遠い異国の香りだ。
「う……」
「! Bonan matenon !」
は? と返すよりも、先に体が動いた。
腕を突っぱね、オレを抱きしめていた腕から、急いで距離を取る。
「な、なに……」
オレに突き飛ばされて驚いたような表情をしていた男は、すぐに何もなかったような顔になり大げさに両手を広げてにっこりと微笑んだ。
長い手が伸ばされると狭い部屋が更に狭く見えて……
「あ……起き……起きたんだ」
「jes!」
機嫌よく返事をする男を警戒してじっと見る。
寝ずの番をして男を見張るつもりだったと言うのに、いつの間にか寝てしまっていたらしい……と言うか、寝ていたどころの話じゃない!
この男に抱き締められて寝ていたのだと言う事実に、なぜだか頭がぐらぐらと煮えたぎるような感覚に陥る。
恥ずかしさに悶えながら、警戒するようにそろりと男を見る。
何色だろうかと考えていた男の瞳は、金に彩られた赤色だ。
その目に真っ直ぐに見つめられて微笑まれて、言葉が詰まった。
「あ の、貴男、倒れてて……「やべっ遅刻っ!」
しどろもどろに続けようとしていた言葉が遮られ、部屋の奥で寝ていた流弐が跳ね起きる。
途切れてしまった言葉の続きを言い出す前に、流弐と同じように参希が勢いよく起き上がって走り出す。
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