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赫砂の失楽園 17
倒れ込んだオレの上に覆い被さるように男が乗り上げてくる。
そうすると、さらにフェロモンが降りかかってきてまるで小さな檻のようだ。
逃げようともがいているのに男の体の下から這い出すことができず、捕まったネズミのようにもぞもぞと体を揺すった。
「な……に……」
怒鳴り返そうとしたのに声が震えていることに気づく。
いや声だけではなく全身が小さくカタカタと震えていて、逃げ出そうと思って動いていたのはただの震えだったと知る。
これじゃ、まるで捕食対象だ。
のしかかる男に食われるのを待つだけの小さく弱い生き物のようだ。
「いい香りがする」
男の鼻先がうなじに触れてすんすんと匂いを嗅がれると、ゾクゾクとした感覚が腹の底から湧き上がるようで……
オレとは違う筋肉質な大きな体が密着する。
清潔でなめらかな肌が布越しに触れ、互いの熱を移しあう。
人と肌を触れ合わせることなんて何度も繰り返してきたはずなのに、どうしてだかこの男から与えられる熱はじくじくとした堪えようのないじれったさを伴って体に広がっていく。
「そん、な、香りなんかしない 」
否定するも、男から放たれるフェロモンが肺を通って全身に駆け巡り、脈がどんどん速くなって体中が熱くなる。
「あ、 あ ────っ」
腹の奥がじれったい!
いつの間にか、もじもじと膝を擦り合わせてしまっていたことに気がついて慌てて爪先に力を込めた。
「ぁ゛……」
「こらえるコトはない」
深く笑う男に見下ろされて、普段なら嫌な気にもなりそうなものがどうしてだか気持ちがいい。
赤い瞳の視線に晒され、撫でられ、その奥まで覗き込まれることがなぜだかたまらなく快感だと思えてしまう。
熱い手が頬を撫でる。
その手がゆっくりと滑り落ち、喉元の隙間から鎖骨を撫でて……
演技をするなんて欠片も思わないほど反射的に体が跳ね上がり、甲高い喘ぎが漏れてしまう。
「あぅ っ……」
自分のものとは思えないような声に、慌てて口元を抑えて身を捩ると無防備になってしまったシャツの裾から、男の手が入り込んで肌の上を触れるか触れないかの距離で撫で上げてくる。
「や……やめ……」
ここまでされて、この男の目的が何であるかに気づかないほど初ではない。
この男がこの先オレに求めてくることを考えて拒否するために首を振ったけれど、そんなことで止まってくれるならばこんな暴挙自体行われていないだろう。
でもそれがオレにできる最大の抵抗だった。
「ドウして?」
どうしようもないほど、簡単な問いかけだった。
まるで本当にオレが男の手を拒むのか、不思議だと言いたげで……
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