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赫砂の失楽園 19

 オレよりも上背がある男だと言うのにねだるような表情を作らせるとピカ一で……  弟のわがままを押し通そうとしている時の表情にも似ていて、胸の奥がうず とうずくような気がする。 「…………」  この男には、どうしてだかそれを押し通せてしまうような雰囲気……いや、気配?違うな……自信があるように思えた。  頼まれたことを唯々諾々として受け入れたくなるような…… 「っ!」  はっとなって条件反射のように目を眇めてみると、こちらに這い寄るようなきらめく砂粒が見える。 「行くぞっ!」  振り払うようにして身を引くと、男は鳩が豆鉄砲でも食らったような顔を一瞬だけ覗かせ、肩をすくめて動き出す。  どこにでも売っていそうな服装をしているのに、体格がいいからか……それとも顔がいいからなのかそれだけの行動なのにひどく絵になる。  サンダルを履く姿でさえ…… 「キミは、めがわるい?」 「は?」 「よく、コチラを、こうみてる」  そう言うと男はアーモンド型の瞳をわずかに細めて、まるで眩しいものでも見るかのようにオレに向けた。 「……ただのクセだよ」  ぽつんと返して目をこする。  実際見えない人間に「フェロモンが見えるんです」と言ったところで理解されないのがいつものことで。  いぶかしむ顔を向けられることにオレは疲れてしまっていた。  男はそれで納得したのかしてないのかよくわからない笑顔を作ると、狭い玄関から一歩外に踏み出す。  暗い室内から切り取られたように見える明るい外は夏の青空が広がっていて、それを背景にたたずむ姿は奇妙なほど違和感がなかった。 「サァ、どこにイこうか?」 「交番だよ」  ウキウキと言う声に冷たく返すと、男は傷ついたような表情をして…… 「……どこの誰かもわからない、路地裏で倒れて、事件に巻き込まれているかもしれないあんたをこれ以上置いとけないんだよ」  「交番」と言った言葉と同じように固い調子で言ってやると、「でも」と言いながら男はオレの手を握ってくる。  決して小さくないはずのオレの手をすっぽりと包み込んでしまう手は熱くて、整えられて、美しくて、それだけで別世界の住人だと表していた。 「オレも学校行かなきゃだし」 「gimnaziano?」 「なんでだよ」 「……」  困惑した表情に「大学生だよ」と慌てて告げる。  高校はともかく、中学と言われるのはさすがにプライドが傷つく。 「ソウ、ソウ。よかった」  肉厚な唇がにっこりと弧を描いて行くのを見上げながら、そんなことの何が良かったのかと怪訝に顔を歪めた。    

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