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赫砂の失楽園 26

 食いしばるようにして震えをこらえると一瞬だけ流暢に流れていた男の声が止まり、またつらつらとオレの生年月日を言い始める。  オレの人生を辿るかのように続いていく言葉は、どれだけオレのことを調べつくしたかを突きつけてきて……    逃げようとしても無駄だと言いたいのがよくわかる。  住む場所もバレ、弟たちを置いて逃げることができない段階でオレの逃げ道なんてどこにもないのは決定だ。  うまくいけばシャワーの間に逃げることもできるかと、ささやかに考えもしたがその思惑もあっさりへし折られてしまった以上、オレにできることはさっさと仕事を終えてこの男の興味を終わらせることだけだろう。 「……もういい、早くシャワーに行けってば」 「そうか。では共に行こうか」  慣れた手つきでエスコートするように手を取られたが、反抗するようにそれを振り払う。 「オレは準備があるからって、言っただろ」 「手伝おう」 「は  ?……客にそんなことさせられるわけないだろ、さっさと行ってくれ」  ぐいっと分厚い胸板を押しやると、抵抗するかと思っていた男はあっさりと身を引いてバスルームがあるらしい方へと歩き出した。  トーブに似た長い服の裾を翻してこちらに向けられた背に、ほっと息を吐く。  ほんのわずかでもいい、この男から発せられる押さえつけるようなフェロモンから解放されたい。    「そうだ、オプションでつけようか」 「な、なに……」 「準備を手伝うことを。それから他にオプションは、何があるのだったかな?」 「なに、って、その   ……っ」  さっと手首を掴まれた瞬間、火傷をしたのだと思った。  驚いて身を引こうとしたのにそれは許されなくて……  じりじりと身を焼くような熱にたじろぐ。  なんてことはない、ただの人の体温だと言うのに今にも手首は焼けて溶け落ちてしまうんじゃないかって錯覚に陥るほど、男の体温は高く感じる。  めまいがするような 熱さ。 「か、ね、金は……」 「そう、失念していた。確か前払いではなかったかな」 「…………っ」  頭を殴りつけるようなぐらぐらとした熱が全身に広がって、どうやって息をしていいのかもわからなくなってくる。 「ハジメ?」 「あ……」  膝の力が抜けて倒れそうになったオレを大きな腕が抱き留め…… 「さぁ、教えてくれ。君のすべてを貰うためには幾ら必要だ?」  オレを見下ろす紅の瞳は、君臨する人間のそれだった。  自分とは別の指が自分の意志とはまったく違う動きをする。  当然のことなのに敏感にそれを拾い上げてしまう体はびくびくと跳ね上がることしかできない。  

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