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赫砂の失楽園 28
第一、これでは何をされるのか……
オレの内臓を売り払ったところで採算なんか取れないだろう。
「どうした?」
窺うように振り返った男に立ちすくむと、ぐずぐずと動かないオレの元へとさっと近寄ってくる。
大きな手でオレの体を引き寄せて胸に引き込むと、満足そうにふぅと大きく息を吐く。
お互いに興奮した体を持て余しながら抱き合っていると言うのに、あまりにも突飛なことが続きすぎたせいかオレの頭はどこまでも冷えてしまっていた。
ベッドに連れて行こうとする男の手に軽い抵抗をしながら、聞くなら今だろうかとそろりと声を出す。
「ど どうして、オレにこんな こと 」
「どうして?こんなこと?」
逆に問い返しながら、男は焦れたのかさっとオレを抱え上げて大股でベッドへと歩いていく。
足のつかない不安定さに思わず男の頭にしがみつくと、彫刻のような顔が嬉しげに歪んだ。
これでもかってくらい分厚いマットのベッドに放り出されるのかと思いきや、男の手は驚くほど丁寧な手つきでオレを下した。
ふわふわだったけれど不快になるほど沈み込むわけではない。
男が覆いかぶさってくるとさすがに深く沈み込みはしたが、それでも心地いい沈み込み方だ。
「や 質問、に……」
「うん?」
男の手が恭しいものを扱うように、オレの皮の固くなった手を掬い取って唇を押し当てる。
熱い。
感じる体温は確かに人間の持つ体温の範囲内なのに、柔らかい唇の触れたところから溶けていってしまいそうなほど熱くてたまらなかった。
どうしてただの不審者であるこの男に触れられた時だけそんなふうに感じるのか、分からないことがもう一つ増えてしまった……と呻きたくなる。
男は、オレの手に口づけられたことが至高の幸せなのだと言いたげな表情でうっとりとしていて……
「どうして は、私がアルファだから」
だから、なんでも言うことを聞かせようと支配しようとしてくるのか?
「こんなこと は、君がオメガだからだ」
はっと気配を感じて目を眇めると、オレを覆う男から金に光る赤い粒がさらさらとオレに向けて降り注いでくる。
息が苦しくなるようなほどのフェロモンの奔流だ と、眩しさに直視できずに固く目を閉じた。
「だから、こうなるのは当然のことだろう?」
男が手を伸ばそうとしたのをさっと遮る。
「 っ」
こいつがαで、オレがΩなら、今この瞬間にもフェロモンに負けて尻アナをびちゃびちゃにしながら喜んでこの男の眼前に股を開いて見せただろう。
「────逆です、お客様」
先ほどまで風呂の中で互いの性器をこすりあってどろどろになっていた間柄で出る声の固さではなかった。
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