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赫砂の失楽園 29
「 せっかく買われたんですから……」
体格の差を考えたら力ずくは到底無理だろうに、男はなんの抵抗もなく引き倒されてオレの下に来る。
シーツに広がった金髪に目を奪われながら、なんて見下ろされることが不釣り合いな男なんだろうと目を細めた。
一体何が起こっているのかも、この男が何を考えているのかもさっぱりわからなかったけれど、一つだけはっきりとわかっていることがあるのを思い出す。
「お客様はただ気持ちよくなってください」
自分自身が何をしなければいけないのかを思い出せば、後は冷めた頭で仕事をこなすだけだ。
オレは、男娼で。
この男は、客だ。
それ以外のことに目をつむれば、この状況は至極簡単だった。
金が必要なオレは、この男から金を貰って、この男の性欲を満たせてやればいい。
「 それから……オレはベータですが、どうされます?」
男は言葉を遮りたがっているように見えたが、あえてそれを無視して「どうされます?」と隙を与えないように問いかけた。
「オメガプレイをお望みならオプションもありますよ?」
オレをΩだと言い張るのならばその言葉に乗ってやってもいいと、そう告げると男は驚いたような顔をする。
それは、これ以上オプション代を取ろうとするのかと言いたいのとも違って見えたし、オレの生意気な言葉にびっくりしているのとも違って見えた。
「はは。そう……では、あれで足りるかな?」
指さされた先には、白大理石のテーブルの上に崩れるほどに積まれた札束だ。
バスルームの札束もそこから取られたものだったけれど、テーブルにはまだまだ見たこともないような金額が積みあがっていて……
オレがおかしなことを言っているのか、男の常識がおかしいのか、どちらがまともな思考からずれているのかわからなくてくらくらと目が回りそうだ。
「オメガプレイなら……もう一本は、足してもらわないと」
フェラやコスプレなんかではなく、Ωの真似をするのは骨が折れる。
とは言え、あれだけ金が積みあがっているのだから十分だった。
「足りないようならもっと持ってこさせよう」
そう言うと男はベッドサイドに置かれている豪奢な箱に手を伸ばした。
中にあるボタンを押すのを止める間もなくて、「あっ」て声を上げた時にはぱたんと部屋の扉が開く音がして絨毯の上を規則正しく歩く足音がする。
「お持ちしました」
男とは違い少し海外訛りのある言葉で告げた黒服の男は、大きなジェラルミンケースをベッドの上に置いて開いて見せてきた。
中にはびっちりと詰め込まれた札束が……
「なっ……」
「もうひと箱持ってこさせようか?」
「はっ⁉」
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