鼻に抜けるメンソールとも違う柔らかな爽快な匂いに、不快感は一切湧かない。 　舌でなぞってわかる歯並びの綺麗さを堪能しながら追いかけっこのようなキスを楽しんで…… 　意地悪をするように引いてみせては舌先でつつくように挑発する。 　これ以上ないくらい間近で見た赤い瞳は、吸い込まれて落ちて行くんじゃないかってくらい澄んでいるのに深い。 　気まずくなるからいつもは目を伏せたりするのに、どうしてだか男の目はいくら見つめても平気で、キスと一緒に夢中になって覗き込む。 　静かなのに、燃えるように情熱的な…… 　 　お互いの唇の間でこねられた唾液が粘度を増してぐちゅぐちゅとねばつく音を立てるのも、どうしてだか気持ちいい。 「んっ……は、ぁん」 　喘いだ拍子に唇が離れるのがうら寂しくて、追いかけるように舌を伸ばして肉厚な唇に縋りついた。 「離れがたい？」 「ぁ……　ん、ん、……そ、じゃ、な　　」 　この男はただの客で、いつも通りさっさと仕事を終わらせて離れなければと思う。 　口では「そんなんじゃない」と言いつつもわずかな隙間も入るのが嫌で、気づけば男に体重を預けるようにしてしがみついている。 　 　オレの中にぴったりと合ったナニの熱さと固さにゆらゆらと腰を揺らしてしまってはいるけれど、ソコの気持ちよさと言うよりは男と体を重ねているということ自体が心地よくて心地よくて…… 　確かに今までの客にはいなかった……いや、身の回りでは見かけないくらいの飛びきりのイケメンだし、体格もいいし、清潔だし、テクニックもあるし……ナニの形もいいけれど…… 　オレ自身、この仕事は金のためだと割り切っていたし、男だけが恋愛対象と言うわけじゃなかった。 　むしろ客の男に体を好き勝手にされるのは耐えなければならないことで…… 　 「んんっ……ァ、　そこ、は……っちくび、だめ　　だ　　」 　 　なのに、この男に体を触られると…… 「　ひ、ンっ　　す、ちゃ、吸っちゃ　　っ」 　さっきまで口の中を犯していた舌が今は乳首に絡まって、焦らすようにちゅぱ　と音を立てている。 「吸うと？」 「っ！　す、吸われると……」 「気持ちいいだろう？」 「ぁ、っ……ちが、オレが気持ちよくなるんじゃなくて……」 「私も気持ちいい。吸うたびによく締まって　　」 　言いかけて男は眉間に深く皺を刻んで堪える表情をした。 「食いちぎられるのかと思う」 「そ、それはっ　　そ、じゃなく、て、　　ンっ」 　またキスを促されて、迷うことなくそれに応える。 　食われそうな　と思うのに、気づけばこちらがむさぼるように食らいついてしまっていて……