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赫砂の失楽園 38
「ちょ やめろって!」
参希ならこうやってもまれるときゃあきゃあ言って喜ぶんだけれど、さすがに流弐は迷惑そうな顔をしている。
そのつんととがった態度が成長なんだって思うと、そこまで年が離れていると言うわけではないのにしみじみとなってしまって……
「ってか、もう一回風呂入って来いよ」
「え?」
「……」
そう言うと流弐はわずかに両目を細めるような態度を見せる。
その動作は……
「 っ」
ひっと喉に何かが張りついたような音が漏れた。
流弐が見せたその行動はオレがフェロモンを確認する時の行動だからだ。
オレがそうすれば大体のことがわかるように、流弐も同じことができると言うことで……
いたたまれなさにぎゅっと服の裾を握って……何か言おうと思うのだけれどうまく言葉が見つからなかった。
前々から流弐がオレのしていることにぼんやりとでも気づいているんだろうとは思ってはいたけれど、それではっきりと確認されているとは思っていなくて思わずぶるりと体が震える。
「ごめん……」
幾ら生活のためだったとは言えオレがしていたことを考えれば受け入れることなんて到底できないだろう。
それでも今まで黙ってくれていたのは、優しさだと思いたい。
「ごめん とかじゃなくて……」
流弐はぱちぱちと目を瞬いた後にさっと視線を下げてしまう。
年頃の流弐が気まずい思いをしているのをわかってはいるけれど、オレにできることは何もなかった。
流弐がオレの顔を見たくないと思ったところでこんな狭い家で顔を合わせないなんてことは不可能だし、出ていけるほどの懐があるわけでもない。
流弐自身がここを出ていきたいと言い出したとしても……現状、流弐の手伝いとアルバイト代がこの家を支えてくれているのは確かなことで、どうぞと言ってはやれなかった。
「俺……が、謝んなきゃ だから 」
ぐっと唇を噛んで、何か決意したように顔を上げた流弐は後ろを振り返って肆乃と良伍を確認した。
参希は遊びに行ったのか姿は見えず、下二人は絵本に夢中になっているようだった。
「あ、謝るって、それは……オレだろ」
体を売って稼いできた金で食事をとって、生活をしていたんて、流弐の年頃の子には不快感を覚えても仕方のないことだから……
「いや、だろうけどもうしばらく我慢してくれ。こんなことしなくてもやっていけるようになるまででいいから 」
それがいつなんてわからない。
うまく就職できたとしても新社会人の給料なんてしれているだろうし……良伍がせめて自立できるようになるまでは……
「誰もそんなこと言ってないだろっ! ……俺は……兄さんだけが犠牲になってるのに、……ごめんって…………」
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