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赫砂の失楽園 40
「 っ」
流弐はぐっと唇を噛んでいる。
「あ……その…………叩いてごめん。でもこんなのするの、オレだけで十分なんだって」
「そんなわけない!兄さんだけが 」
「オレだけとか言うな。オレは流弐たちと暮らせるためならなんだってするって決めてるんだから」
もちろんの話、施設に入ればいいのに って言う話がなかったわけではない。
でもそこに入るには何か所かに分かれなければならなかった。
いるべきはずの親がおらずに寄り添って生きていた弟たちを引き離すことなんかできなくて……
だから、この生活はオレが望んだことだし、自分のしたいことをしたのだからそのツケはオレ自身が払うべきだ。
「お、俺……にっできること、は……」
「良伍の送り迎えとバイトしてくれてるだろ?」
「そんなのっ全然役に立ってないだろ⁉」
「そんなことないない。流弐が頑張ってくれてるからオレも頑張れるんだし……後は、公立大学に行って欲しいなって思うんだ」
そう言うと流弐は盛大に顔をしかめてすねたような雰囲気を作ってしまう。
進学する気はない と言いたいんだろうか?
でも流弐が進学する頃にはオレも社会人だし、進学の手助けくらいはできるはずだ。
Ωに近いβのオレと違って、流弐はαに近いβだ。
だからオレと同じβでも流弐は体が大きくなるし、勉強の飲み込みも早いし運動神経だって優れている。
優秀 なんだ。
だから、同じような話が続くと思われようとも、流弐には大学に行ってきちんと学んで、自分が職業を選べる人間になって欲しい。
親じゃないのに、何を偉そうにと言われそうな希望だったけれど、優れた能力を持っているのだからそれを存分に使わせてやりたいと思うんだ。
「大学なんて……」
「流弐はアルファよりもいい点とったりしてるだろ?」
「テストの点ばっかりがすべてじゃないっての」
むっと大人びた表情で顔をしかめる流弐は、もしかしたら家庭のことでいろいろと周りから言われたことがあるのかもしれない。
「でも点数は点数だろ?な?もったいないことはいけませんって教えてるだろ?」
「それは……食べ物の話だろ」
「あ!流弐にしてもらいたいこと、もう一つあったんだ!」
「な、なんだよ」
「……参希たちには、ばれないようにしたいから手伝ってほしいんだ」
はは と笑ってみせたけれど、力はこもらない。
今回はたまたま気づいたのが流弐で、感情に流されないできちんと確認を取る性格だったから助かったけれど、これが肆乃だったら怒り狂って物を投げて、客だった相手を一人残らず探し出してコテンパンにしてしまいそうだ。
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