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赫砂の失楽園 41

「本当は流弐にもだったけど……こう言うの知られたくないから……」  理由はどうあれ、手段は手段だ。  逃げも隠れもしないけれど、でもできれば小さな弟たちの目の中の光を奪いたくないと思ってしまう。  身を張って稼いだ金を汚い金と言いたくはないけれど、いい金ではないのは確かだ。 「……ごめん」  知ってしまったことに対する謝罪なのか、それとも他のことに対する謝罪だったのかはわからなかったけれど、流弐はそう言って苦そうな感情を隠さないままに小さく笑った。    グラスを拭きながら、せめてあのジェラルミンケースの中から一束くらい失敬してもよかったんじゃ……と思い出してはっと顔を上げる。 「どしたの?」  アーモンド型の瞳を丸くしながらきょとん首を傾げるケイトに、「儲け損なった」とは言えずに感情を隠した顔で首を振った。 「お酒の発注するように言いそびれたなって思って」  オレの嘘をケイトはちょっと考えてから飲み込んでくれたようだった。  じゃあ確認してくる!とはきはきと言って、店長の方へと飛んで行く。  なんの遠慮もなく店長に話しかけてじゃれつける姿を眺めながら、グラスの雫を拭う動作に紛れさせて心の中の曇った部分を拭きとる。  わずかの曇りもない薄玻璃のグラスを見つめていると心が落ち着くようだった。 「何か考えごと?」  ケイトから何か言われたのか、オレの隣に来た店長はちょっと気取ったような声音だ。  何か心配事があるなら聞くぞ と言う雰囲気だったけれど、客から金を取りそびれたとは言えなくて、軽く片方の眉だけを上げる。 「大学の勉強でわか  」 「あ、ごめん。他のことで」 「ですよね」  綺麗になったグラスを置いて、次のグラスに手を伸ばす。 「勉強……なら、先生に聞いて……みる?」  先生 と、前日自分を口説こうとした銀縁眼鏡の客の顔を思い描いた。  確か現役の高校教師だと聞いたけれど…… 「あ、兄貴でもいいけど」  店長の兄は、確かお医者様だと言っていた。  確かに学校の勉強には強そうだ。   「いえ、専門の話なので」 「あ、あー……そかぁ、それはわかんないなぁ」  店長の短く爪の切りそろえられた指がグラスを取るのを見る。  恋人がいない間はそうでもないけれど、恋人ができたら絶対に手入れを怠らない。  相手をいたわるために手間暇を惜しまないこの人は……どんなふうにプライベートを過ごしているんだろうか?  バイトには決して見せることのないその部分を………… 「勉強はわからないけど、何かあれば相談に乗るからね」  他の人なら社交辞令なのだろうけれど、面倒見のいい店長だとどうだろうか?    

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