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赫砂の失楽園 59
三人とも全裸かそれに近い格好でどきりとしたが、健やかな寝息を立てているところを見ると何か乱暴されたわけでもなかったし、オレ自身にも何もないようだ。
けれどやはりここで寝かされていた意味が分からず、混乱した頭でそこから逃げようとそろりと動く。
「ん、んー……」
赤髪の人物が大きく呻き、心地よさそうに腕をぐいっと伸ばした。
「わっ」
びくっと跳ねたのが振動で伝わったのか、赤髪の人物ははっとこっちを振り返ってエメラルドのようにキラキラとした瞳でオレを見て、にこーっと満面の笑みで何事かを早口で告げてくる。
わずかに聞き取れないこともなかったけれど、混乱した頭では冷静に聞くことができなかったせいか意味を掴み損ねてしまった。
眉を八の字にして首を緩く振ってみせると、赤髪は慌てたように他の二人をバシバシと叩き始める。
次に目を覚ましたのは金髪の人物で、眠さを隠さない表情で体を起こすとけぶるような金色のまつ毛の下から美しい紫色の瞳を覗かせた。
「bonan matenon」
弾むように告げられた言葉は聞き取れたけれど、その後に赤髪と話し始めた内容はさっぱりわからない。
やがて最後の一人、くすんだ砂色に近い金髪の男が噛み傷のあるうなじを掻きながらのそりと体を起こす。
ブランを初めて見た時にも驚いたけれど、彼の瞳は比べ物にならないほどキラキラとした金と銀のオッドアイだ。
「……bonan matenon……」
起こされたことが不服だと隠しもしない表情で呟くと、オレを見て不愉快そうに眉をしかめた。
その様子はオレを歓迎しているとは思えなくて、何事かを話し始めた三人から距離を取るようにじりじりと後ずさる。
「你好」
「⁉」
赤髪に言われた言葉はわかるが、首を振ってみせると三人はさっと顔を見合わせた。
そして視線で何かを語り合うとクッションの間から携帯電話を取り出し、何事か打ち込んでからこちらに差し出してくる。
「日本人?」
携帯電話から聞こえてきた言葉に思わず大きく首を縦に振った。
三人はほっとしたような表情を見せて、それぞれの携帯電話で「おはよう」と言葉を流す。
「おは……よう……ございます」
それだけを返して、じっと三人を交互に見つめる。
赤髪と金髪、それからくすんだ金髪の三人は、誰が見てもわかるようなΩらしい綺麗な顔立ちをしていて……
ほぼ裸と言う格好で顔を寄せ合って話しているさまは、どこかの宗教画のような雰囲気さえある。
華奢で可憐、そして優美な光景だった。
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