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赫砂の失楽園 60

 指先……いや、髪の先まですべてが磨き上げられた彼らの生活を想像するのは簡単だ。  極上の手触りのベッドの上で心行くまで惰眠を貪れる状況にいると言うことがすべてを物語る。  αに選ばれたΩだから?  αに選ばれるΩだからか?  この三人も、ルチャザ国の慣習の下で大事に扱われているんだろう。 「オレとは大違いだな……」  問答無用で連れてこられて、挙句には処刑、しかもその原因であるあいつは顔も見せない。  そんな自分との待遇の差を見た気がしていたたまれなくなってくる。 「あの、オレはどうしてここに?」  つい日本語で尋ねかけてしまったけれど、先ほどまでのやり取りで言葉が通じないのははっきりしていた。  どうしたものかと考えていると、赤髪がオレに向けて携帯電話を差し出してこれに打ち込めと身振り手振りで伝えてくる。  受け取っていいものかと考える前に、赤髪は無理やりオレの手の中にそれを押し込めてにこにこと笑った。 「『オレはどうしてここに?』」 「『庭にいたから』」  庭……  あの静寂に包まれた場所を思い出してぶるりと体が震える。  自分が何のためにそこにいたのかを思い出して、ぎゅっと喉元を押さえた。  息苦しさを感じるのに手を離せないままでいると、白い手が伸びて喉元の手を優しく引きはがす。 「「『歓迎するよ』」」  二つの声と共に美しい笑顔がにっこりと向けられた。  服を着た……と言ってもガウンを羽織った三人に連れられて紗のカーテンをくぐって見た先は、オレが寝かされていた部屋よりもはるかに豪華で、華美なほどに装飾の施された部屋だった。  宝石箱の中か万華鏡の中に落ちたかのような気分になったオレは、ぽかんとしてそれを見渡す。  日常には絶対に必要のない飾りに満ちたそこを、三人はすいすいと進んでいく。  この場所にどれほど馴染んでいるかをわからせる態度に、本当に別世界なのだと足が止まった。 「『どうした?』」 「…………」  清潔で心地よい風と、光に満たされた回廊、砂漠の国だと言うのに水の溢れる噴水のあるそこは緑であふれて楽園のようだ。 「『食事、行こう』」    手を引かれたけれどオレの足は動かなかった。  首を振って手を振り払うと、三人は不安そうに柳眉を歪めて色とりどりの瞳でオレを見つめる。  その目に敵意がないのはわかっている。  にこにことした笑顔と心配そうにする顔と……そこに嘘なんかはないってわかっているからこそ首を振った。   「  オレ、……逃げ出してて  」  言葉が通じないことに気づいて渡されたままの携帯電話にその言葉を打ち込む。

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