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赫砂の失楽園 62

 幾らオレが体を売っていたとしても、それと人目に裸を晒すのは別問題だ。  思わずしゃがんで抗議の声を上げたオレに、「しーっ」とジェスチャーで答える。  さっきまでは感じなかったぴりっとした空気に困惑したが、金髪がコクコクと頷きながらオレの両手を持って立たせて湯船の奥へと導いていく。  立派な彫像がある角を曲がると、そこは完全に出入り口から死角になって見えなくなった。  そこの浅い部分にある縁にオレを座らせると、金髪は満足した表情を作ってからもう一度「しーっ」と身振りを見せて二人の方へと帰っていく。  滑らかで、真っ白で、傷一つないその背中だったけれど、だからこそ余計にうなじにつけられた歯形が映える。  αが、Ωを噛んで番にした証拠であるそれは、金髪だけでなく他の二人にもしっかりと刻まれていた。 「…………」  つまり、ここは後宮だ。  だから……と、オレは目を眇めて広い浴場を見渡す。  水や湿気、風でかき消されそうになってはいるが、ここにあるのはすべてΩのフェロモンだ。  Ω以外の性別のフェロモンが一切見えないと言うことは、そう言うことなんだろう。  ……あの三人の番のαは……  誰なのかと考えそうになって大慌てで首を振った。  そんなことを考えたところでどうにもならないのはわかっている。  このルチャザ国の王の伴侶はΩしかなれない。  しかも、王が自ら運命を探して迎え入れるのだと聞く。  残念ながら……βに運命はいない。 「 ────っ!」 「 ……っ! ───っ!」 「 …………っ!」  思考を切り裂くように聞こえた声は会話をしていると言うよりも、怒りを含んでいるようだった。  三人の声で鋭い音が立て続けに出され、そして三人以外の聞いたことのない声がしどろもどろに反論をする。  何を言い争っているのかはわからないけれど、それでもただ事じゃないことだけははっきりとしていた。  一瞬、何事だと飛び出そうとしたがそれを寸でで堪え、金髪が言っていたように口を押えて息を詰めた。  三人がここにオレを連れてきたこと、そして静かにしているようにと言った理由は、オレを探している奴らからオレをかばうためだったんだ と、今更ながらに気づいて息を飲む。  どうしてだか、理由はわからないが三人はオレを匿おうとしてくれている。 「 っ!  ───っ」 「 ───っ!   っ!」 「 ……───っ!」  じっと集中して聞けば、「出ていけ」や「帰れ」と言う言葉が所々で聞き取れた。  後宮に住むΩとは言え、王族が人探しをしていてそれを庇って……無事に済むんだろうか?  

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