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赫砂の失楽園 63

 自分はとんでもないことを三人にさせてしまったんじゃないだろうかと、ぎゅっと身を縮める。  でもこの異国の地で、頼るもののないオレには縋れるものに縋るしかできることはなかった。 「 ───っ!」  ひときわ大きな怒鳴り声がして、辺りはしんと静まり返る。  彫像の陰から盗み見ることもできず、急に訪れた静けさに胸の内がひやりと冷たくなった。  何が起こったのか今すぐ飛び出して確認したい気持ちを抑え込むためにぎゅっと手を握り込むと、湯の中にいると言うのに血の気が失せてしまったのか氷のようだ。 「 ……!」  弱弱しい声と……それから去って行く足音に、詰めていた息をほっと吐いて壁に背中を預ける。  ここにやってきた気配が遠ざかっていくことに、泣きそうなほど安堵を感じて今にも魂が抜けてしまいそうだった。 「『もう平気』」  ひょこっと顔を見せた赤髪がそう告げると、残りの二人もやってきてオレの隣に次々と腰を下ろす。  四人で横並びになって座り、ぽかんと向かいの空間を眺める。 「…………」  なんだこれ と思わなくもないシュールな絵面だと思うのに、どうしてだかこうやって並んでいるとほっとする自分もいる。  少し前まで日本にいて、金の都合に追われながら生活していたのに、誘拐されて求婚された挙句に首を切られそうになって、気づいたら宮殿で風呂に入ってる……なんて、誰が想像するだろうか?  しかも、右を見ても左を見ても見目麗しいΩ達に囲まれて……美しい光景を眺めているのだから、人生は何が起こるかわからないとはよく言ったものだ。 「  砂漠   の色が……」  見る位置なのか、ここから見る砂漠は濃い金色をしているように見える。  最初に見た時はルビーでできていてもおかしくないのにと思えるほどの、輝きを放つような赤に見えたのに……と思って、少しでもしっかり見ようと立ち上がった。  色は違えど、美しい金の海原が地平線まで広がって……青い空と砂の金色と、どこまでも続くそれらは人の想像力を掻き立てる。    その向こうに何があるのか、  その向こうに何が待ち受けているのか、  まるで冒険を誘うかのような、人を惹きつける光景だった。 「『ルチャザ砂漠』」 「綺麗 ですね」  ポツンと言葉を漏らして、それが通じない言葉だと気づいて「beautiful」と言い直す。  オレを追いかけるようにして隣に並んだ三人が、言葉を聞いてにっこりと嬉しそうに笑いながら同じように砂漠を見つめる。  こんな青さがあったんだと思わせる青い空を見上げる三人の目が、空を映して青く光を弾く。

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