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赫砂の失楽園 73
ちゅっとまた小さく音がして、おでこの辺りがむずむずするような感覚がするも、触れた感触はない。
目の前で、いたずらっ子のように微笑む美貌を悔しく思いながら睨みつける。
完璧なんじゃ 思わせる鼻梁に、きっとこれ以上綺麗な瞳はないと思わせる相貌、それから官能的な厚みのある唇は……
好みか好みじゃないかを差し引いたとしても、アルノリトの顔は男前だ。
それが目の前で甘い表情を作るのだから、怒鳴りつけて蹴り飛ばしてやりたいと思っていた気持ちもしぼんでいってしまう。
「……顔、もう平気なのか」
勢いに任せて蹴りつけてしまったが、具合はどうなんだろうか?
見たところ、腫れたり傷ができたりはなさそうだったが、それでも処刑にしようと言うくらいなのだから……
「砂漠の男はヤワじゃない。触れて確認しみてくれ」
そう言うと長いまつ毛を伏せて顔を近づけてくる。
体温が、わかる?わからない?
心臓が跳ねたせいでそれすらよくわからなかった。
「さ、触っても、いいか」
先ほどアルノリトがオレに懇願したように、今度はオレが請う番になっていた。
そろそろと上げた指先を頬に触れる直前で止めて、アルノリトが許可を出すその時を待つ。
「ふふ」
柔らかな笑い声が耳を打つ。
「もちろん。私のすべては君のものなのだから、君に触れて欲しくないところはないし、君は私に何をしてもいいんだ」
何をしても と告げるアルノリトはオレが蹴りつけたことに微塵も怒りを抱いていないようだった。
無条件でオレの行動を赦しているのだと思うと、喉の奥と言うか胃の上の辺りと言うか、その辺りが痒いような気分になってくる。
「さ、触る から」
「ああ」
指先だけで、オレが蹴り飛ばした部分に触れてみた。
小麦色の肌はしっとりとしているのに強い弾力を持っていて、わずかに髭が生えているんだと思わせる感触がする。
でも、オレにできたのはそこまでだった。
体温の熱を感じた指先が耐え切れなくなって、熱湯にでも触れたかのように思えてしまったから……
「ハジメ?」
「も、いい。無事なのが、わかったから」
「じゃあ、君に触れてもいいかい?」
問いかけていると言うのにアルノリトは答えを知っているんだとばかりに頬に触れてくる。
まだ、いいともダメとも言っていないのに……と思うのだけれど、その指先を拒絶する気は起きなかった。
目を眇めてはいないが、きっとアルノリトはオレを絡めとるようにフェロモンを出して囲うようにオレを閉じ込めている。
アルノリトの匂いでできた檻に、オレはすっぽりと入ってしまっているに違いなかった。
でなければ……
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