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赫砂の失楽園 77

 できる男だと言いたげに微笑まれたけれど……そんな話を初めて聞いたオレはぽかんと返すばかりだ。  日本でどうしているだろうと心配だっただけに、居場所が分かったばかりかもうすぐ会えるのだと聞かされて、がくがくだった腰にとどめを刺されてしまった。  脱力したオレはずるずるとアルノリトの膝の上に頭を横たえる。  王太子にこんな膝枕なんてさせているのがばれたら、ただじゃすまないのはわかっているが、男前がにっこり微笑んで膝枕してくれている……と言う状況に少しだけ心が躍った。 「こうしていられたら、幸せなんだけどな」 「ハジメがこうしていたいとい言うなら、ずっとこうしててもいい」  至極真面目に、穏やかな笑みで告げるからついうっかり本気にしてしまいそうになる。  そんなことができたら と思いかけて、結局自分は退屈で退屈でたまらなくなってしまうだろうと肩をすくめた。 「君が望むのなら、なんだって」  穏やかに微笑むアルノリトが首を下げるから、オレは伸びあがるようにして肉厚な唇に触れる。  熱と、しっとりとした感触……なのにどこか蠱惑的に甘い。 「……王様が頭を下げすぎだろ」 「私はまだ王じゃない。番がいないからね」 「……」  その話を持ち出されて気まずく視線を逸らすと、オレの意図がわかったのかアルノリトは話を逸らすように話し始めた。 「この国の王は冠を頂かないのは知っているだろうか?」 「冠……王冠?」  王様と言えば、首の骨でも追ってしまいそうな大きな冠だ。  確かに、そのイメージがあるのは否めなかった。  小さい頃の絵本からの刷り込みだな と思うけれど、あながち間違っている知識だとは思えない。 「王はその頭上に冠を頂くのは、王は頭を垂れるべき存在ではないからだ」 「……謝らないって、ことか」  為政者が誤りを認めてはならないと言うことなのかと、ぼんやりとは思うけれどもオレには正直なぜ謝らないのかと言う部分は理解しがたかった。   「王が頭を垂れる時は、その冠が脱げ落ちる時なのだ」  冠を脱ぐ ではなく脱げ落ちると言う表現に、その状況を思って唇を引き結んだ。  贅沢な暮らしもできるだろう、人を思いのままにすることもできるだろう、欲のままに生きることもできるだろう……けれどそれに伴う責任の在処の問い方は…… 「だから、我が王国の国王に王冠は存在しない」  言い切るアルノリトの赤い瞳はどこまでも力強くて、絶対強者であるαらしい光を湛えている。 「それは……ルチャザが独裁国家って話?」  つんと言ってやると、アルノリトの顔がぱっと破顔した。

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