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赫砂の失楽園 79
アルノリトはオレの視線を受けて気まずげに視線を逸らすとが、じっと見つめてやっていると決まりが悪くなったのかやがてぼそりと口を開いた。
「君に会いに行こうと思ってた」
「忍んで?」
「……仕方がないだろう⁉この国では君の言うことが最優先なんだ!……会いたくないと言われたら、会えない」
ぐっと感情を飲み込んだような顔をして、アルノリトは「会いたかったんだ」と呻く。
「オレは……会いたくなんて、言ってない。と、言うか……アルノリトを蹴りつけたから……処刑されるって 」
「そんなことしない!」
そう言うとアルノリトは弾かれたようにオレの足首を掴んで、その足裏に頬を添わせてくる。
「やっ 何やってんだよ⁉」
「君はこうしてもいい」
ちゅう と足裏に口づけられて、先程の爪先以上の羞恥心に慌てて身を引いた。
けれどアルノリトは足を離さずにオレ一人がじたばたとしている状態だ。
生まれてこの方、人にそんな場所に唇をつけることを許したことなんかなくて、くすぐったいのと恥ずかしいのとで顔に急に熱が集まってくる。
「や やめ そ、そんな そんな 」
涼しい顔でオレの足裏に頬ずりをするから、もう限界だとばかりに「止めて!」と叫んだ。
「わかった」
アルノリトはやっぱり涼しい顔をして足を話してくれたけれど、どこか名残惜し気にその指はオレの皮膚の上をさまよっている。
足裏にまだくすぐったい感触が残っているようで、ごまかすために靴を履いてアルノリトの視線から隠す。
「残念だ」
「なにっ言って……っ」
むずむずとするから足首をぎゅっと掴んだオレに、笑いながら手を差し出してくる。
「じゃあ行こうか」
「……どこ 」
「どこに」と言う前に手を引っ張られてよたつくように立ち上がった。
立ち上がっても足はどこかむずむずとしていて、とんとんと爪先を打ち付けたりしてみるも感覚は薄れてはくれない。
「さて……とりあえず、嘘をついたブランのところかな」
柳眉の片方を跳ね上げて、アルノリトは忌々しそうに呟いた。
逃げはしないと言うのに、アルノリトはオレの手を掴んだまま城の廊下を突き進む。
行き交う人が驚いたような顔を一瞬だけしては、深く頭を下げて廊下の端に寄ってまるで彫像のように動かなくなる。
オレはそれが酷く居心地が悪くて、アルノリトが颯爽と歩き去ってくれなければ立ち止まっておろおろとしてしまっていたかもしれない。
後ろから見る靡く金の髪は風に吹かれる砂漠のようだ。
そして瞳も……美しい砂漠のようで……
「 ────ブランっ!」
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