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赫砂の失楽園 81
だからと言ってそれが何を指すかわからず、窺うようにアルノリトを見上げる。
「なに……?」
「……アルノリト殿下の意思に背くことを承知で 「では言うな」
ぴしゃんと断ち切られたせいでブランの言葉は行方を失ってしまった。
口から出なかった言葉が体内で暴れているかのように、ブランは苦しそうな顔をしてうつむいてしまう。
「これは私の意思ではない。神の定め賜うた運命だ」
ブランはもの言いたげにはく……と唇を動かすが、ぶるぶると震えてそれ以上は何も告げない。
全身に冷や汗をかいてうずくまるように伏せるその姿は、蹴られて怪我をしていないのであればきっと……フェロモンで脅されているんだろう。
「アルノリト!押さえつけるのはやめろ!」
「ハジメ⁉」
目を眇めるようにしてやれば、ばつの悪そうに眉間に皺を寄せてまたすねたような表情に戻ってしまった。
「ブランさん……あなた、本当にオレを処刑するつもりだったんですか?」
「 ……いえ、そんなわけないですよ」
はぁ と大きく息を吸い込んだブランはやっと息ができたと言うような顔をしていたけれど、顔色は悪く目の周りにクマも見える。
疲れ切ったようにぐったりとした体を支えようと手を伸ばしたところで、アルノリトに止められてしまった。
「触れることは許さない」
いつぞやもこんなことがあった……とブランも考えたのだろう、きっとオレも同じ表情をしていると思う。
ジタバタと抜け出そうにもアルノリトの腕はがっしりとしていて、オレを放す気はなさそうだ。
「ア、アルノリト!ブランさんはオレをどうこうする気なんてなかったんだって!」
「だから、近づいていい話ではない」
「ちょ、も、 はな、話できない!」
「話をする必要はない、ハジメの代わりにブランの首を切ればいいだけの話だろう?」
冷たく言い放った言葉はナイフのようで、ブランに向けて投げられた言葉だと言うのにオレの胸の内をひやりとさせる。
「そんっ……何言ってんだ!人の命を軽々しく!どれだけひと一人を育てるのが大変か、どれだけ心を砕いてやらないといけないのか、そんなことも考えずに人に死ねって言うな!」
自分を拘束する腕に拳を振り下ろし、脛を蹴ってアルノリトから距離を取った。
まるで裏切られたかのようにぽかんとした表情でオレを見るアルノリトをキッと睨みつけて、「大人しくしていろ!」と怒鳴りつけてブランの腕を掴んで立たせる。
立たせたブランの埃を払ってやり、怪我は頬のものだけかと確認していると目の前の体がぶるぶると震え出した。
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