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赫砂の失楽園 82

「大丈夫ですか?」  立たせたくらいで顔色は戻らない。  おどおどとオレとアルノリトを見比べて、顔をくしゃくしゃと崩してしまった。 「ご無事で……良かった……けれど…………でも、駄目なんです」  オレに向けて告げる言葉は弱弱しかったけれどもはっきりしている。  拒絶の言葉は幾ら罪悪感に満ちていようとも、申し訳なさそうにしていようとも心をひやりとさせるには十分だ。  怯えてはいたけれどそれでも意思を貫こうとしているのか、ブランは唇を噛んでから姿勢を正してオレの方を見る。 「この国は……この国の王は必ず番を持ちます。そして最初に生まれたアルファが王位につきます、それがこの国を存続させ、守るのです」 「……」 「王は即位前に旅をします、この国だけでなく、自分の番である運命を探すためです。番の成立をもって王位継承とするのはそのためです」  ところどころつまずいたように間が空くのは、ブランがどう説明しようかと悩んでいるからだと言うことはわかった。  けれど、説明されなくても何を伝えたいのかは理解している。  今にも遮りたい気持ちを押さえて、ブランが苦し気に言葉を紡ぐのを見守った。 「王后殿下はフランス語圏の方で、父親しかいない貧しい家庭の育ちだったそうです。王太后殿下はイタリアの方でした、先の戦争で身内を亡くされ、路地裏で過ごされた時期もあったようです」 「……なに……」 「この国は、王の番に選ばれたことの生い立ちなどは一切言及はしません。それは王の番だからと言うこともありますが、王のように強いアルファの番ならば試練を受けて当然と受け入れるからです」 「…………」  ぎゅっと自分の体を抱きしめて、先程までのブランがそうだったようにぶるぶると震えそうになるのをこらえる。  指先の血の気が引いてしまったのを感じながら、視線をそらさないように顔を上げ続けた。 「この国はどのような出自でも、この国の国民は受け入れ続けます。ただ一つ、条件があるとすれば   オメガ」    それまで気丈に振舞っていたブランの顔がぐしゃりと歪み、言ってしまった言葉にひどく後悔しているように見える。 「王の番は運命でなくてはならないのです」 「だからハジメが運命だと   っ」  さっと振り返って睨みつけると、口を挟もうとしたアルノリトを黙らせた。  ……けれど、今にも膝から崩れてしまいそうなふわふわとした心地でブランに続きを促す。 「アルファの王の相手は運命の番のオメガだけです、例外は認められません。ルチャザの王は脈々とそう言う運命を紡いできた一族なのです。運命の番との間に生まれたアルファは抜きんでて優秀になります。その優秀さがなければこの砂漠の国を率い、守ることができないのです」

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