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赫砂の失楽園 83

 アルノリトがこれから立ち向かうであろう、部族問題や水の問題、それに砂漠に眠っているだろう資源の問題などの話はさっぱり理解できない。  砂漠の国での生存競争が激しいと言うことは、日本で育ったオレだって理解できる事柄だ。  少しでも、足元をすくわれないように気を張りつめて策略と政略を練って……  この国を守り続けるために。 「……わかってるよ」  オレの言葉は軽すぎたのか、ブランは酷く侮辱されたような顔をしてこちらを睨んできたが、オレが怯まずにそれをしっかりと受け取るとおどおどと弱気な表情を覗かせた。 「王が大事なのも。その後継ぎが大事なのも。この国のために重要なことだって」  項垂れるようにして見た床は、王族の部屋と言うわけではないのに十分豪華で上質なものだと一目見てわかるものだ。  この王宮のすべてがきらびやかで、Ω達のいる後宮は更に贅を凝らしたものばかりで埋め尽くされていた。  かつて、金持ちになりたいと願ったこともあって、お城に住みたい!かしずかれてぐーたらしたい!なんてことを考えていたこともあったけれど、実際訪れてみた王宮は華やかで豪奢で絢爛で……  でも、オレには不釣り合いに見えたし、なんだかオレの世界とアルノリトの世界がずれているのだと痛感するだけだった。  この王宮はまるで色とりどりのサンゴ礁のように見えたけれど、人の身では水の中に住むことはできなくて、すべてがまやかしにしか見えない。  幾らここが素晴らしいところだと言われても、水っぽい果実をかじってしまったような味気ない薄っぺらたいものとしてしか受け取ることができなかった。  それに、日本ではΩでないことに胸を撫で下ろしていたオレが手の平を返したように、Ωを羨んでしまうのも嫌だった。    それでは……  まるで…… 「国のために最優先にされる事柄は、正当な王族の血筋の継続性だ」  はっきり言葉にしたオレに、ブランはほっとしたような表情を見せた。  『正当な王族の血筋』はアルノリトのことじゃない。  いや、正確にはそれも違うのだけれど、正しくはαが娶った運命の番の産んだαってところだ。  αΩ間で子供ができた場合、二人の子供はαの才能や能力をすべて引き継いで生まれてくると言う、眉唾な話を日本でも聞いたことがあった。  特にそれが運命の番同士で行われたのならば、その奇跡的な出会いが子供に何らかの奇跡をもたらして能力の高い子になるのかもしれない。  そう言う婚姻を繰り返してきたこの国は……  

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