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赫砂の失楽園 90
「今は、もうそんなこと、古い話だ。世の中のバース性持ちはどんどんと数を減らして、人に寄れば無性に混ざって消えてしまうんじゃないかと言う話をしている方もいる。頭角を現す存在が必ずしもアルファでないことも増えてきている」
「だから、どうした?」
「運命には抗えない。たとえその相手がベータだとしても」
ちゅ とショール越しに口づけてくる。
「それが運命なのだから」
「…………」
何を馬鹿なことを……と言う言葉を飲み込んで、赤い砂漠を眺めながらアルノリトにもたれかかる。
誰かにもたれかかることができると言うことを、オレは初めてしたかもしれない。
「……運命がなければ、アルノリトはオレを好きになったか?」
モナスート教の教えで愛から始まった二人は運命の番だと言う。
だからモナスート教では運命の相手を尊ぶ。
その前提がないオレは、結局は一時の戯れと言われてしまえばそれで終わってしまう。
「運命がなければ? 好きになったか?」
はは とどこかからかいの感情を滲ませた返答を、オレはどう聞けばいいんだろうか?
それがなければ触れもしないのか?
歯牙にもかける気も起きないと、笑うだろうか?
オレを熱っぽく見つめる赤い瞳はこちらを見ないと言うだろうか?
運命がなければ用なしだと告げられるのかと、息を詰めて返事を待った。
「運命がなければ愛したに決まっている!」
熱い腕が力強く抱きしめてくる。
息が詰まりそうなのに、叫び出したい気分で喉がひゅうと鳴った。
「運命だったら愛していた。運命でなくても愛していた」
抱き上げられて爪先が空を蹴って、不安なはずなのにこの腕がオレを放すことはないと確信があった。
国を一望できるこの場所で更に抱えられると視線はアルノリトよりも高くなって……青い空に滲むように続く赤い砂漠は光の粒になって地平へと消えていく。
こんな景色を見ることがあるなんて、今までの人生で考えたこともなかった。
風に混じる異国の匂いも、肌を焼く日の光の近さも、すべては太陽の下に晒されてすべて臆面もなく生を謳歌している。
その国をこれから率いる男が、オレを愛しているのだと言う。
「 ────っ」
ぶるりと体が震えた。
宝石のようなこの国の男が、オレの為ならすべてを捨てると言い切り、膝をつき、頭を垂れ、愛を告げるのだと。
オレに愛を受け入れてもらうために……
オレに……────っ!
「弟御達はまだ見えないようだ」
「……うん」
返事はしても、視界に本当に弟達が映っているかどうかははっきりとはわからない。
もしかしたらいたかもしれないし、アルノリトの言葉通りいなかったかもしれない。
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