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赫砂の失楽園 96

「これっ……俺達、いきなり連れてこられて……」  ざっと見たところ怪我や強引に連れてこられた様子はなかったけれど、それでもいきなり異国に なんて非日常に明らかに動揺している。 「ごめ……ごめん!巻き込んで……これは……」 「あんた  っ!あんたがやったのか⁉」  オレの隣にさっと視線を走らせた流弐は一瞬で感情を爆発させて緻密な象嵌のテーブルを飛び越えて、アルノリトへと飛びかかろうとした。  けれど、それは一瞬だった。  今までそんな人影なんて周りにいなかったのに、さっと躍り出た男たちが流弐を取り押さえてあっと言う間に床へと叩きつける。  バタンと言う人の押し倒される音と、肆乃の泣きそうな悲鳴と…… 「 ────流弐っ!」  一瞬で走った緊張にその部屋の空気が凍る。  床に引き倒された流弐が言葉を発する前に、オレはアルノリトに向けて「放せ!」と短く怒鳴りつけた。  そうすると今度は別の緊張でしんと静まり返る。  それが、この国の王族に向けて怒鳴りつけたことによるものだとはわかっていたが引くわけにはいかない。  部屋に走る緊張感を何も感じないかのように、アルノリトは涼し気な笑みを浮かべたまま何も言わずに軽く片手を上げた。  まるで親しい誰かに挨拶するでもするみたいだ……と思っていると、現れた時と同じように男たちは気配と姿を消してしまう。 「……」  それは、あまりにも一瞬過ぎてまるで夢でも見たかのような気分だったが、よろけるように立ち上がる流弐が現実だと教えてくれた。 「すまない、ハジメ」  オレに謝罪をすると、アルノリトは流弐に座るように促す。  あまりにも何事もなかったかのような態度は先ほどの出来事も、少し前まで抱き合っていたこともすべてなかったとでも言いたげだと思った。 「初めましてではないね、ようこそ我が国へ」  怯えて泣き出しそうな肆乃にも優し気な笑みを向けるけれど、四人もオレと同じように先ほどのことを受け流し切れてはいないせいか、ぎくしゃくとした空気だ。  オレの手を取ってソファーに促すと、アルノリトは何も乗っていないテーブルを見て鼻白んだように首を傾げた。 「どうやら我が王宮に怠け者がいるらしい、遠くまできて喉が渇いたろう?」 「……」  流弐はアルノリトを睨んだまま首を振るが、参希は思いつめたような表情のままだし、肆乃は涙が零れ落ちないように懸命に唇を噛み締めている。  良伍はそんな兄達に囲まれて不安そうにしていて、泣いていないのが不思議なくらいだった。

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