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赫砂の失楽園 97

 突然訳も分からないまま違う国に連れてこられて、挙句がこの扱いなのだからその緊張を考えるともう限界を迎えているんじゃないかって思えた。 「突然こちらに呼んだことに驚いただろう?その分、もてなすので存分楽しんでもらえると嬉しいよ」 「そんなことより!まずは……説明だろう⁉」  また飛びかかろうとした流弐を今度は肆乃がしがみついて押し留める。 「  っ……これはっ一体何なんだよ、あんた一体っ何で……っ兄貴に、っ 何を  っ」  流弐が息苦しそうに息を荒げて言葉を途切れさせ始めて、そこでやっと微笑んで立っているアルノリトがしていることが分かった。  気づいた瞬間慌ててアルノリトにしがみつくと、はっとした目がこちらを向いて貼りつけたかのような笑みが崩れて焦った表情が顔を覗かせる。 「弟に何をするんだっ!」 「あ っ……すまない、ハジメ。ついいつもの調子でいた」  悪びれてもいない態度は、αの威嚇が他人にとってどう言う影響を与えるか本気でわかっていないかのようだった。  ぎゅっと眇め見た視界の中で、アルノリトの流弐を押さえつけていたフェロモンがさらさらと流れ落ちるのが見える。   「……っ」 「悪気があったのではない」 「…………オレの、兄弟に何かしたら許さない」 「当然だ!ハジメの兄弟と言うことは私の兄弟でもあるのだから」 「ちが  っ「どういうことだ!」  オレの言葉が流弐の声にかき消されて……そこで先に弟達の不安を取り除いてやらなければならないことに気がついた。  不安そうにして怯えるようにしている弟達がオレに向ける瞳は、どこか不信を含んだかのような雰囲気で今までのものとは違って見える。 「あんた、兄貴が拾ってきた奴だろ⁉」  混乱しきった流弐がまた再び声を上げたことに、オレは頭を抱えたくなった。  肆乃は目をキラキラとさせていたが、他の弟達はうろんな表情だ。  それはそうだろう、いきなり兄が異国の王子に見初められてここに連れてこられた……なんて、なんの絵本の話かとオレ自身が聞きたいくらいだ。  事情を説明しているうちに大きなテーブルの上に所狭しともてなしの為の菓子や飲み物、果物などが並べられてそれが余計に非現実感を加速させる。 「……そんな、都合のいい話あるもんか」  呻くように言った流弐の言葉もよくわかる。 「第一、兄貴はベータだぞ!」  はっと自分の言葉に気がついたように流弐は口を押えて飛び上がった。 「あん……王子様の話を鵜呑みにするなら、運命の番じゃないと駄目なんだろ⁉兄貴はベータなんだからそんなはずない!」  

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