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赫砂の失楽園 103

 朗々とした声が緩やかなメロディーを取りながら歌うそれは、この国の歌なのかもしれない。  聞いたことのないリズムのはずなのにどこか懐かしいと思わせるそれは、子守唄のように子供を寝かしつけることもできそうなほど穏やかだ。 「  ────月と砂漠色の王の望みはただただそれのみ  」  しっとりとした唇が指先に触れると、はっとするほどの熱さだった。  じわじわとその熱が広がってどっと心臓を鳴らす。 「ハジメ、私の愛を疑わないでおくれ。そしてどうか私の願いを忘れないで」 「……ああ」  ここを離れてしまえば、こんな至近距離で顔を合わせることなんてないんだろう。  最後に一度だけ……と爪先立ってアルノリトの頬を両手で包み込んだ。 「月と赤い砂漠の王様、あんたに出会えてよかったよ」  アルノリトが何か言い出す前にさっと伸びあがってキスをした。  これ以上何も聞きたくないとばかりに強く求めた口づけに、アルノリトは何も言い返しては来なかった。  不安そうな参希に比べて良伍は何もわかっていないのかきょとんとして、多少そわそわしてはいるけれどそれだけだった。  泣き疲れて眠ったままの肆乃は流弐が抱っこしてくれていて……  思ったよりも皆落ち着いてくれていた。  遮るものがない空港は風の音が大きくて、アルノリトと会話らしい会話をすることは叶わない。  それでも、オレをリードする手のぬくもりとこちらを見下ろしてにっこりと笑う姿に気持ちはずいぶんと救われた。  弟達が促されて飛行機へと乗り込んでいくのを見送ってから、強い風に揺らぎもしないアルノリトへと向かい合う。 「  似合ってるな」  荒く猛々しい環境だと思う。  生きていくには厳しい場所なはずなのに、そこに立つアルノリトはどこまでも気高く力強く、しなやかで美しく見える。  この世界がアルノリトの世界なんだとすとんと理解して、知らないうちに笑みが零れた。 「ハジメ」  風の音を縫って聞こえるアルノリトの声は、張り上げているわけではないのにはっきりとしている。 「生涯、私の番は変わらない」  耳を打つ言葉に、否定を返さなければならないのにどうしてだか苦笑だけが漏れた。  風になぶられたせいで避けるように顔を背けると、ふわりと頭からアルノリトの香りが覆いかぶさる。  それは先ほどまでアルノリトの肩にかけられていたもので、それに包み込まれると不思議と周りの風が凪いだ気がした。  音はすべて消えて、目の前の真摯にオレを見つめるアルノリトの与えてくれるものしかわからない。 「ハジメ、私の番」  跪いて、頭を垂れる。  

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