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赫砂の失楽園 107
流弐は流弐なりに、あの時兄弟を危険に晒したオレを許せず、だからと言って気にかけないわけにもいかないと言うことでこんな態度になったんだろうな とは思う。
しっかりしないオレの代わりに、弟だと言うのに頑固に育ってしまった と思ってしまうのは仕方ない。
「貰った金があるんだろ。明日大きい病院に行ってこいよ」
もぞ と小さく寝床が動いてそう声がする。
「あ、うん。大丈夫、ちゃんと薬飲むか「はぁー」
オレの言葉を遮るようにくそでかい溜息を吐き出されて、流弐がオレのことを心配してくれていると思っていたんじゃないのかもしれないって気持ちが少しむくりとした。
今日もオレは絶好調で、朝の目覚めもよければ何も問題はない。
なのにやっぱり流弐がつんけんしながら他の弟達の前で「病院行って来いよ」なんて言うから、肆乃はさっと顔を曇らせて朝ご飯を食べようとした手を止めてしまう。
少し窺うような雰囲気に、目を眇めてやれば少しはその気持ちも理解できるとわかっているのだけれど、オレは弟達からのそんな視線を感じたくなくて、目を逸らすようにして卵焼きを見た。
卵十五個を使って作ったのにあっと言う間になくなっていくのだから、弟達は本当に食べ盛りだ。
とは言え、昨日店長にも言われたし、再三流弐にも言われてしまった。
自覚はないとは言えあんなことがあって、普通の生活を送って気が抜けてしまったのかもしれない。
そう言う気の抜けた時に病気にかかりやすいと言うのは理解のできることなので、仕方なく財布の中身を思い出してみる。
「俺が出すから」
「な、何が 」
「金の計算してただろ」
「な、なんの話か 」
睨みつける……じゃない、眇めるようにこちらを見る流弐に逆らえるはずもなく、オレは仕方なく頷いた。
オレに財布を預けようとした流弐になんとかそれを突き返し、睨みつけられながら勧められた病院へと向かう。
離れてついてきているのは、目を離すとオレが薬局かどこかで栄養剤を買ってすまそうとするのがバレているからだ。
せめこそこそついてくればいいのに、数メートル後ろをぴったりついてくるのだから逃げようがなかった。
「っても、健康なんだから……どこを診てもらえばいいのか。……あ、精神科か?カウンセリング?とか?」
それなら納得もできる!と病院案内図を指で追うと、後ろから来た流弐がさっとその手を取って歩き出した。
なんの迷いもないかのようにすたすたと歩いて行くから、つんのめって倒れそうになるのをかろうじてこらえる。
「え、ちょ、なに 」
「知り合いが務めてて、普通に診てもらうよりも早く診てくれる段取りしてくれたからこっち」
そう言ってオレを連れてどんどんと歩いて行った。
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