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赫砂の失楽園 112

「そいつっ……もう感情があるんだよ! 兄貴が笑ってたら弾んでるし、落ち込んでたら暗くなってる!生きてるんだよっ!……そん……そんなん……もう、家族だろ……」 「……」  激流のように言葉を吐き出して、流弐は息が苦しいのか咳き込んでうずくまってしまった。  荒々しく上下する背中をさすりながら、何も飲み込めていないままに視線を腹へと移す。  人を見なければならないことはあったが、自分の体を見ることなんて必要がないからそうしたことはなかった。  けれどあえて目を細めて体を見下ろせば……  ちかり と赤い光の粒が零れる。  ショールから消えて行って寂しく思っていたそれが、本当に微かにではあったが主張するようにふわりと広がっている。 「な  ……なに、これ  」 「 っ……この色、あいつのと一緒だろ」 「ぅ……ん」  赤い、光り輝く赤、  あの日見た美しいルビー色の砂漠と同じ色の……  それは、この腹の中にいる存在の父親が誰かはっきりと物語っていた。  周りはわからないかもしれないが、オレと流弐にはフェロモンが見えるのだから、それを疑うことはなかった。   「兄貴、俺学校辞めて働くから」 「おい!いきなり  」 「正社員で務めて、その後アルバイトもする。兄貴が抜けるならバーの店長が雇ってもいいって言ってくれてる!」 「流弐⁉」 「とにかく隙間に仕事を入れて、稼ぐからっ!だから兄貴には安心して欲しい!出産費用もっそれから掛かる分までっ!俺が稼ぐからっ」 「そんっ……そんなことさせられるわけないだろっ!」  流弐はオレよりも頭がいいし身体能力にも恵まれている、オレと同じで少し目つきが悪いところが玉に瑕だけれど、それを引いても明るい未来があるのにオレのことでそれを棒に振らせるわけにはいかない。  親達と同じことを、流弐にするわけにはいかない! 「先生っ  オレは……」  今でも生活はぎりぎり……いや、ぎりぎりどころか破綻していて、今まで改心してこなかった両親が今回のことで心を入れ替えて戻ってきてきちんと働くなんてことは起こるはずがない。  それを考えると、オレの取るべき道は一つしかない。  もう感情があるのだとしても、  ここに息づいているのだとしても、  オレにはこの子を育てる余裕なんてないんだ。 「……オレ、は……」  育児が容易でないのは良伍でよくわかっている。  キラキラとした思いだけでやって行けるようなものでない。  わかってる。  十分わかってる。  言わなければいけない言葉も。 「……オレ、は、この子を    」  育てられないんだから……  ぎゅっと唇を噛み締めて、覚悟を決めて顔を上げた。

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