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赫砂の失楽園 114
将来それがどう転ぶか……
あいつの子だと言うのがバレて、βから生まれた子供は認められないとまた何かされたら?
今回は流弐が見つけてくれたからよかったけれど、今度もそうとは限らない。ましてや生まれたら四六時中一緒にいることなんて不可能なんだから、その隙を狙われたら?
何かあったらオレはきっと耐えられない。
「とりあえず、時間はあるよ」
「時間……」
この子をどうするか、決めろと?
「こちらとしては、倫理をそっちのけで話をさせてもらえるなら、せめて産むだけでもして欲しいってところだけれど」
胡散臭い笑みは薄情そうだが、それが世間の在り方なんだとオレに思い出させるには十分だ。
幾ら何をあがいても、世の中は厳しいし何を犠牲にしても生きていかなきゃいけないんだから……だから、オレの答えはもう決まっていた。
帰りの案内を断ると、阿川はやはり落ち着きのない様子で頭を下げて見送ってくれた。
オレの後ろに控えるようにして立つ流弐は、会話を避けたがっているような雰囲気で……
無言のまま来た道を戻るのは酷く気づまりだった。
流弐がやっと口を開いたのは病院玄関を出たところで、オレの機嫌を窺うようにおどおどとした調子だ。
「 兄貴、ほん 本気、なんだよな?」
「嘘言ってどうするんだ」
「……俺、できることは何でもするから」
「……うん」
ガラス戸の傍で立ち尽くしてしまった流弐を追いかけて戻り、仕方なく小さい頃のように手を引いた。
参希達がいたから実際にオレがこうして流弐の手を引いてあげたことは少なかったけれど、でも懐かしい感覚にほっと胸が温かくなる。
「お 俺、家族が減るの嫌だよ」
五人兄弟で、オレ一人じゃ手が回らなくて流弐には小さい頃から我慢させたり、お兄ちゃんをさせてしまったりしたからか何かを嫌だとはっきり言うようなことはなかった。
そんな流弐が初めてはっきりと告げる言葉に、オレは苦笑を返す。
「可能性があるってだけの話だろ?」
カバンの中に片付けてある書類に書かれてある一文を思い出す。
『出産には、不測の事態が伴う』
親達がいつの間にか弟を産んでいたせいかそう言うものだと思っていたのか、流弐はその言葉に見た目でわかるほど動揺していた。
瀬能が丁寧に説明してくれたこれからのことと考えられるオレに降りかかるリスクは、高校生の流弐にはびっくりするような内容だったんだろう。
もちろん、オレだって自分がこんな立場になるなんて思ってなかったから、そう言うもんなんだ……程度の認識で、瀬能が一つ一つ説明してくれる事柄にどんどんと不安になって行ったのは事実だった。
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