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赫砂の失楽園 116

 美しい金色の髪と、そして宝石を思わせる赤い瞳がゆっくりと動いて物憂げにこちらに動く。 「……アルノリト」  久しぶりに見た顔は記憶の中にあるよりも幾分精悍になったようで、こちらに歩いて来るまでにそれが痩せたことによるものなんだってわかった。  少し頬がこけて、気怠そうな雰囲気はそれでもこの男にとってはマイナスではなくて、なんだか物思う雰囲気が加味された分……こちらが恥ずかしくなるような色気が加わったようだ。  触れると柔らかいことがわかる金でできた髪も、褐色で滑らかな肌も、官能的で柔らかい唇も……オレをすっぽりと包んでしまえる腕も、しっかり覚えていると思っていたのにこうして実物を目の前にしてすべてが色あせてしまっていたのだと感じる。  鮮やかな存在がまるで染み入る雨のようだ。 「穴が開いてしまうよ」  ふふ と笑うアルノリトにそう言われて、オレははっと飛び上がった。 「な、……何の用だよ!」  思わずうろたえて後ずさるけれど、さっと伸びてきた手がそれを許さなかった。 「しまった、再会の第一声は愛していると言おうと思っていたのに」  軽く首を傾げて告げられた言葉はなんてことはない恋人同士の言葉のようで……むず痒い感覚に体をゆすりながら、それでもその腕の中から逃げ道はないかと辺りを見回す。  けれどカイ達は止める気はなさそうだし、流弐も驚いた顔をしたまま固まって動かない。  周りの人々に至っては写真を撮ろうとして黒服達に連れていかれている始末で、自分でどうにかするしかないようだった。 「なに、何言って……」  さっきから繰り返してばかりの言葉に自分でもどうかと思ったけれど、それしか出てこない。 「ハジメと離れる一分は、一年よりも長いよ」  手を取られてちゅ と口づけられ……訳の分からなさに目が回りそうだ。 「ど、どうして……ここに?」 「君に愛を告げに来た」 「なっ……」 「私の愛、命、すべて。逢いたかったよ」    額に垂れた髪を払われ、至近距離で微笑まれたらその美貌に惚れこまない人間なんていないだろう。 「なん ……な、なに……そんなこと……」  おろ と戸惑うももう逃げられるような状態じゃなかった。  あれだけ恋しいと思った相手のぬくもりが今、自分を包み込んでいるんだと理解しただけで震えそうで…… 「  ──── なんだい、この騒ぎは」  オレを見つめていた瞳がさっと動き、後ろから声をかけた人物を見て細められる。  そうすると思考にさっと現実が入り込んできて、ここがどこだったのか、今がどう言う状況なのかを思い出した。

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