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赫砂の失楽園 120

 三人がオレを『reĝo()』と呼び、後ろ盾になってなお文句を言ってくるのはこの王様くらいで…… 「またそれで言い合うのか?」 「い、言い合いじゃなくて話し合いだ」 「一緒のことだろ?それに子供はこっちで産むんだって」  一瞬、ルチャザ国で産もうかとも考えた。  病院設備はどうなのか、衛生観念はどうなのか……いろいろ考えることはあったけれど、アルノリトや瀬能からの説明その水準は決して低くはなく、むしろ誇れるくらい先進的だから安心して産めるだろうと言われたからだが、ただそれを取りやめたのは布教に出ている両親と連絡が取れないと言うことが決定打だった。    親がいつ帰ってくるかわからない状態で家を出ることはできない。  あんな親でも、それでもこの大事な話は通しておくべきだろうと思ったからだ、もちろんアルノリトも探してはくれたが……どうしてだか見つけることができなかったと言われてしまった。  また連絡手段のないようなところへ行っているんだろうとは思うのだけれど、それが気がかりだった。 「アルノリトのお母さんもそうされたんだろ?」 「ああ」  親のことを持ち出されると弱いのか、アルノリトはむぅーっとすねた顔をしてみせる。 「じゃあ、オレもそうする」  言い切ってしまうとアルノリトは何も言えなくなるようで……とは言え、ほとぼりが冷めた頃にまたぶーぶー言い出すのは目に見えていることだった。  黙っていれば熱い砂漠の風を運んでくるような風貌なのに、オレを見る時は堪らなくとろけるような目をして見つめてくるのがくすぐったくて…… 「はぁ、ではそれまでに宮殿の改装をしておくか」 「無駄遣いすんな!」  それでなくとも、オレ達の住んでいたアパートを買い取って建て直して……なんてことをされているのに、あの完成された芸術作品のような宮殿内をこれ以上いじくるなんて正気の沙汰とは思えなかった。  あれ以上どうなるんだ⁉ 「いやいや、私の宮に子供部屋を作らないとだろう?」 「……ああ、あの」  王宮内で一番高いところにあるアルノリトのための宮。  オレとしては、子供の転落の危険性があるからできるだけ高い部屋はごめんこうむりたいのだけれど。 「もっと低い部屋はないのか?」 「ない」  だろうな。  何でもかんでも聞き入れてくれる割には、アルノリト的に引けない一線って言うのがあるようで、これもその一つらしかった。 「あの場所は代々、王と伴侶の暮らす場所なのだ。それだけは譲れない」 「……まぁ……なんとかとなんとかは高いところを好むって言うしな」  わからないだろうと思って笑い交じりに言ってやると、アルノリトが顔をしかめて「めっ」とでも言いたげな表情を作る。

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