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落ち穂拾い的な おごそかぼっき
動く度にシャラシャラと体中から音が鳴る。
幾重にも重ねられた紗は薄いはずなのに枚数があるせいで身動きがとれる状態ではなかった。
まるで簀巻きだ。
「おっっも!」
思わず漏れた声が格好にそぐわなかったせいか、カイ達がさっと振り返って目で訴えてくる。
仕方なく頷こうとして、それも封じられていることを思い出す。
ガラス? と言うのが最初に見た時の感想だったけれど、その王冠の中央にはめ込まれた子供のこぶし大のアレキサンドライトは本物だったらしく……1カラットを越えるものすら希少なその石の、そんなバカげたサイズがつけられた宝冠が、今オレの頭上にある。
以前にアルノリトが言っていたように、オレにはアレキサンドライトを始めとした色とりどりの宝石をちりばめた宝冠があると言うのに、王であるアルノリトは申し訳なさ程度に額を飾る細いサークレットがあるだけだ。
オレは首一つ動かすにも難儀しそうだと言うのに、それに比べてアルノリトはずいぶんと軽装だった。
「逆だろ?」
「そんなことはない。アルファは番を守るためにいつでも戦えるように身軽でいなければ」
にこやかにそう言うけれど、自分が重いものを身につけたくないだけじゃないか……とか、重いものを着せて逃げられないようにしているだけじゃないか……とか思わなくもない。
現にオレが今、逃げたくても逃げ出せない状態だからそう思うのか……
どこまでも青い空が見える窓から歓声が聞こえてくる。
国王が番を披露すると言うことで沸き立つ国民を前に……もうっホントっ逃げ出したい!
幾らアルノリトに番だと言われても、オレはΩじゃないし庶民だ。こんな爪にまで装飾品をつけてじっと座っているなんてしたこともなくて……
「アルノリト、無理だ」
「ハジメ?」
「無理だ!無理無理無理無理!あんなにいっぱい無理!」
叫ぶと体中につけられた飾りがじゃらじゃらとけたたましい音を立てて、それが一層不安を煽る。
「オレっ無理だって!」
何が とか、どこが とかじゃなくて、もうすべてが駄目だと思ったらもう頭の中がそれ一色だ。
「……人払いを」
綺麗な色に染められた指先を振ると、それまでオレの世話を焼いていた皆がさっと姿を消して……
式典の準備にざわついていた部屋が急に静まり返って、なんだか夢から醒めたような気分になった。
なのに、聞こえてくる歓声がそうはさせてくれない。
「アルノリト……無理だ……オレはやっぱりオメガじゃないし、なんの教養もないし、カイ達みたいに綺麗でもなんでもない!あんなたくさんの人達を前にする勇気もない!」
「ハジメ、私の愛」
今にも飾りと言う鎖を引きちぎって暴れ出しそうなオレに、アルノリトは跪いてキスをしてくる。
「君は私の運命だ。オメガである必要も、教養も容姿も関係ない、何人が認めなかろうと私が知っている、君が私の唯一であり絶対だと」
「……口紅ついただろ」
「美しい赤だろう?」
拭おうとした手を取られて、肌をゆるゆると撫でられると混乱に振り切っていた心のメータが萎れるようにもとに戻って行くのを感じた。
ほんの少し言葉をかけられて、こうして触れられてにっこりと微笑まれてしまうと……なんだか大丈夫な気になってきてしまう。
「ハジメ、美しい。出会った時からこの衣装を着せたかった」
「……そん 何言ってんだよ」
「我が国の色に包まれた君は言葉では言い表せなくくらいに美しく、神秘的で、魅惑的だ」
「 ぁ、うん 」
この男の口が回ることはわかってはいたし、こうして恥ずかしい言葉を真正面から言われるのは毎日のことだったのに、正装をしているアルノリトに跪かれて告げられると胸がくすぐったくてたまらない。
「許されるなら、今すぐ君と一つになりたい気分だよ」
「な、なに……これから式典で、こんな空気の中なのに……~~~~っ!なんでっ 」
ぶるぶると震え出すオレとは違い、アルノリトは涼し気だ。
涼し気だけれどもその股間は厳かに勃起していて……これから全国民の前に立とうと言う王の姿じゃなかった。
「提案なんだが、ハジメ」
「……なんだよ」
「少しリラックスしてみないかい?」
そう言うとアルノリトはいたずらっ子のような顔で、幾重にも重ねられた布をプレゼントでも開けるかのように捲り始める。
「ちょ、ちょ……この服に何かあったらカイ達にめちゃくちゃ怒られるんだけどっ」
「ならば私はハジメの盾となろう、どんな時もこの身を表に、君をどんな困難からも守ってみせる」
「その盾が原因になっちゃダメだろうが!」
そう言いながらも、細い優美な装飾で飾られた足をむき出しにされてしまって……
「ぁ、んっ……息がくすぐったい」
「じゃあもう少し足を開いて」
「ァ……ン」
オレはもうなすがままだ。
でもしかたない、だって、宝冠が重くて逃げられないんだから!
END.
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