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落ち穂拾い的な ねぇばあや

 ねぇばぁや、わたくしは砂漠の国に嫁ぎます  それがオメガに生まれたわたくしの役割なのだから  ねぇばあや、わたくし見てしまいましたの  陛下には想い人がいらっしゃったの  ねぇばぁや、どうして泣くの?  わたくしは嬉しいの    たしかにわたくしが陛下に会いましたのは儀式で紗の布越しではありましたけれど、陛下はそれでも十分立派だとわかるほどの美丈夫な方で、だからわたくしは国同士の婚姻とは言え嬉しかったのです  そして立派に着飾った近衛の騎士と並びますとまるで一枚の絵画のように美しかったのですから  ねぇばぁや、その陛下が騎士の足元に崩れ落ち、象牙でできた頬に真珠の涙を流されているのを見ましたの  薄い月の光がまるで明かりのように二人を照らして、けれど同時に思いつめた二人の表情に濃い影を落として……  それはまるで物語に出ていた悲恋を憐れむ恋人のようでした    ねぇ、ねぇばぁや    なんて美しい瞬間だったのでしょう  砂漠の王にふさわしい砂漠色の髪を無防備に騎士に差し出し愛でさせる陛下の微笑、そんな陛下を柔らかく愛を込めて見つめられる騎士の二色の瞳  ねぇばぁや、わたくしは恋の一つもせずに嫁ぎましたけれど、それでもわかります  愛し合う二人の空気の美しさは  意に沿わぬ婚姻で引きはがされた恋人達の悲壮な表情はいつも仮面のように塗りこめられていて、月の光の下でのみそれははがれて煌めく目でお互いを見つめ合う  美しい、美しい、その瞬間にわたくしは胸を打たれて立っていられないほどでした      あらばぁや、町から鐘の音が聞こえるわ  市でも立つのでしょうか?それとも祭り?風に乗って歓声まで聞こえてくるのだから、娯楽なのでしょう  ……そう、わたくしは見てはいけませんのね  ばぁやはいつもわたくしが見ていいものか悪いものかを教えくれるのね  それがわたくしのためになるから、なぜならわたくしを愛しているから  同じようにわたくしは、夫である陛下を愛しております  例えそれが政略結婚という味気ないものだったとしても、そのお姿は美しく成らぬ恋に身を焦がす姿はわたくしがいなければ と思わせるほどの哀愁を漂わされておりますから  ああ、ばぁや  わたくしは、陛下も、陛下に愛されている騎士も愛していますので、素晴らしいことを思いつきました  立場、男同士、アルファとベータに引き裂かれた二人はそれでも愛し合っている  けれど立ちふさがる困難は高く、そして溝はどこまでも深いのです  あの美しいお二方にわたくしができることを見つけました  わたくしは陛下の子を産まねばなりませんが、その子が陛下と騎士の子ならばどうでしょう?  わたくしが、陛下と騎士との子供を産んで差し上げればいいのです!  きっとオメガのわたくしでしかできないことでしょう    わたくしはオメガですから、陛下に似た美貌と砂色の髪、そして騎士様の二色の瞳を受け継いだお子様を産んでみせましょう  愛し合う二人の為に二人に似た愛らしい御子を、次代の王にふさわしい二人そっくりのアルファを!      ねぇばぁや、どうしてみんなは驚いているのでしょう?  せっかく赤子が生まれたと言うのに誰一人としてを祝いを口にしないのはどうして?  わたくしの言ったとおりの、王の砂漠色の髪と騎士の二色の瞳を持つ美しい子が生まれましたのに……    宮中で鐘が鳴りました  王宮内では市も立たず、祭りも行われるはずがありませんのに、高らかに、高らかに鐘が鳴ったのは王子の誕生を祝うためでしょうか?  二人に似た美しい王子の誕生ですもの……なのにどうして、皆の顔は暗く沈んでいるのでしょう?  ねぇばぁや、王は王子を見て涙を流されましたのよ  自分の髪と騎士の瞳を持って生まれた子に、喜んでくださったよう  玉座に沈み込んで盃を煽られるお姿は、いつもの凛とされたご様子と違いましたもの  わたくしはお二人の愛の懸け橋となれましたことにとても満足しております    もっと鐘を鳴らしてお祝いをしていただきましょう  高らかに、高らかに青い空に響き渡るように END.  

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