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落ち穂拾い的な 養子を考える

「しずるっ!雪虫っ!聞いてっ! あ゛ーっも゛ーっ!大神さんの子供が欲しいっ!孕みたいっ!ガンガン犯してガンガン種つけて、「俺の子を孕め」って囁いて欲しいっ!」  そう叫ぶセキのセリフが雪虫に聞こえないように、耳を両手で塞いだ。  うちの雪虫に下品な言葉を聞かせないでくれ! 「ちょっと!聞いてよ!」 「聞いてる聞いてる」  適当に返すオレにセキは睨みを返してくるから、仕方なく肩をすくめてみせる。 「大神さんが子供欲しそうには見えないけど」 「うっ……」 「第一、子供好きにも見えない」 「うぅ……」 「最悪、できたら捨てられる可能性が……「大神さんはそんなことしないもんっ」  言葉を遮られて、もう一度肩をすくめた。 「んじゃあ堕ろせと「言わないってっ!」  あんまりにもセキが大声で言うから、雪虫が不安そうな顔でオレを見上げてくる。  その蒼い瞳にへらりと笑い返していると、セキにドンっと突き飛ばされた。 「あいてっ」 「そっちはどうなんだよ!オレだけの問題じゃないだろ⁉」 「うん?」 「雪虫と今後どうするのさ」  そう言われて……ちらりと銀色に近い金色のつむじを見下ろす。  雪虫と番になりたいって思えて番になれて、じゃあその次は……ってなったら家族になりたいとなんとなく思う。  二人に似た子供がこの生活にプラスしたら と思うと、それだけでそわそわとなってきてしまう。    オレ自身、ろくな親に当たらなかったせいで子供のことなんて考えたこともなかったけれど、αの質なのかどうなのか……なんとなくだけれども、孕ませたいって欲望はどこかにあって。 「オレは……オレは、雪虫さえいてくれたらいいかな」  そう返したオレにセキは何かを察したようだった。  雪虫は体が弱くて、自分の命を支えることで精いっぱいだ。  今も先週からの発熱が落ち着いてやっと体を起こせるようになったばかりなんだから……  瀬能からも避妊には注意するように常に言われているし、オレは雪虫と他の何かを天秤にかける気は一切ない。  雪虫と一緒に居られるならオレは自分のどんな欲望だって堪えることができる。 「えと……ほら、養子って手もあるし!」  なんとか場を和ませようとして声を上げたセキに、曖昧に笑って返した。 「瀬能先生は……お子さん三人でしたっけ?」 「うん、そうだよ。写真見る?あのね、この前ね「あ、そう言うのいいです」  いそいそと携帯電話を出してこようとした瀬能に掌を向けて断ると、ちょっとすねたような顔を返されるのだから人間はいつになったら大人になれるんだろう? 「あの、えっと、ですね。養子縁組って、難しいですか?」 「うん?」 「あ、いや、なんでもないです」 「雪虫とのってことじゃないよね?」  胡散臭そうな顔をちょっと歪めて、瀬能は理解したと言いたげな顔でオレを見る。 「僕はお勧めしないよ。現に君は今、ワンオペのシングルファーザー状態だからね」 「そ……何言ってんですか!」 「雪虫の世話に仕事に勉強に、野菜も作り始めたって聞いたけど?」  だって、雪虫の体に入るものなんだから、できるだけ自分で作ったものを食べて欲しくて…… 「ちゃんと寝てる?」 「寝てますよ」 「休んでる?」 「やす  んでます」 「僕とのお茶休憩は休みじゃないよー?」 「…………」 「幾らアルファとは言え人である以上、限界はあるからね」    ふぅ と溜息を吐いて瀬能は背もたれに力いっぱいもたれかかる。 「僕が言えたことじゃないけど、子供を育てるってそれはそれは想像以上にいろんな労力がいることだ。体力面でも金銭面でも精神面でも……きっと君が考えている以上に」 「……だ……別に、するって話じゃ……」 「犬猫を貰うように考えちゃいけない」 「そ、と、当然じゃないですかっ!」  怒鳴り返したのはそれがちょっと図星だったからで……  あんなジジィとババァでも子供を持てたんだからって安易に考えていたのは違いなかった。 「君が家族の在り方を模索しているのも、雪虫とのことを考えているのはよくわかってはいるけれどね」 「……」  冗談です とでも言えればよかったんだろうけれど、それすら口から出ずに押し黙る。 「まぁそれに、子供ができるって言うことは少なからず雪虫の愛情がそちらに向けられるってことだからね」 「っ⁉ あ、えっと  」  当然のことなのに瀬能に改めて言われて気がついた。  今は二人だけの生活だけれども、子供を考えたらそれは二人の間に入ってくることになるって言うことは……すべてオレに向けられていた雪虫の関心が他に流れてしまうと言うことだ。  子供相手に何を……と思うも自分の嫉妬をどうにもできず…… 「想像だけでもジェラシー感じるなら駄目だと思うよ」 「……はい」  そうしょんぼりと言って返した。 END.  

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