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第4話

 本宮から渡されたグラスに入っているビールを義人は一気に飲み干した。 「九時にはクライアントとの約束がある」 「俺の飯のためだけにわざわざ帰ってきたのか」  あきれて義人は言った。  掛け時計に目を向けると、まだ七時前。  どうりで外が明るいわけだ。 「放っておくと義人はなにも食べないだろ。やっと抱き心地がよくなったのに」 「うん?」  聞き捨てならないセリフが含まれていた気もするが、それは聞き流し義人はご飯をかき込んだ。  食べ物に執着がない義人は、気づくと一日なにも食べず六法全集を読んでいることもある。  それほど勉強しても本宮にはかなわなかった。  結局義人は旧司法試験での合格は諦め、大学院卒業後の新しい司法試験にのぞんだ。 「やっぱ、炭火はうまいな」  焼きたての鯖の塩焼きを頬張りながら義人は呟いた。 「そうか、俺は天然の塩が効いたこっちのほうがおいしい」  義人を抱え込むように座り込んだ本宮が、耳朶をしゃぶりはじめる。 「変態、これでも咥えてろ」  本宮の鼻先へ野菜スティックをつきだした。  スティックがかじられていく小気味良い音を聞いていると、いきなり指先にぬめりを感じてあわてて手を引っ込めた。 「暑いから離れろよ」  背中で本宮を押すが、いっこうに気にする気配はない。

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