36 / 49

第36話 発情期の鎖

呆れ顔の楓さんに罰が悪くなった俺は、慌てて祥一朗から離れた。俺、なんか変だ。こうやって人に縋り付くとか、今までの俺には無かったことだ。俺が黙って考え込んでいると、祥一朗が俺をソファに座らせた。そして俺に言った。 「雪弥は発情期が終わったばかりだし、そもそもこの手の話に疎いから戸惑ってるんだと思うが。…その、発情期を共にした相手には一種の絆の様なものが生じるんだ。俗に言えば鎖に縛られてると言うんだが。これから雪弥は他の人間とも関係するかもしれないが、やっぱり最初の相手はその鎖が強く、長く繋がる。知ってたか?」 俺はちょっと呆然として首を振った。またもや、知らないことが出てきた。感情が囚われると言うことだろうか。それなら少し分かる。だって誰だって初めての相手は忘れられないだろうし。俺がそんな風に考えてると楓さんが言った。 「…そっか、祥一朗の言う通り、雪弥くんは本当何も知らないんだね。ていうか、今の話の本当のところもわかって無さそうだ。これはほんと教え甲斐があるというか。ふふ。その鎖はしばらく二人を共依存体質にするんだ。さっき雪弥くんが不安を覚えた時、祥一朗は自然に抱きしめただろう?それを雪弥くんも当然の事として受け入れていた。無意識にそうさせるのが鎖だよ。その状況は暫く続くだろう。」 俺はふとあいつらが妙に俺と発情期を迎えたがっていた事に気づいた。 「もしかして、秋良たちが俺と発情期にこだわってたのって…。」 祥一朗は俺の隣に座ると、俺の手を両手で握って言った。 「そうだ。だから私は相当恨まれてるに違いない。こうやって雪弥を横取りしたんだ。もうすぐ来るだろうけど、一発殴られるかもしれないな。」 「…でも、俺が祥一朗に頼んだ事だから。祥一朗が悪いわけじゃないよ。責められるなら俺だ。」 そう言って俺は祥一朗をじっと見つめて、握られた手を握り返した。 「だーかーらー、俺も居るの忘れないでっ!」 楓さんはそう大袈裟に騒ぐと、ニヤニヤしながら俺たちの前の一人がけソファに座った。俺は握られた手の温かさに癒されながらも、何か忘れている事がある気がして落ち着かなかった。鎖。身体を繋げた相手と生じる絆。いずれ薄れてしまうもの。 俺はハッとして祥一朗を見つめた。 同時に祥一朗も気づいたのか、同じように驚いた顔で俺たちは見つめ合ったんだ。

ともだちにシェアしよう!