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第37話 俺の能力
俺たちの様子がおかしい事に気づいた楓さんは、急に真面目な顔をして言った。
「祥一朗、何だ。話せ。」
祥一朗は一瞬迷ったそぶりだったけれど、俺の顔を見つめると頷いて言った。
「実は発情期の最中に雪弥がおかしな事を言ったんだ。その時は発情期のいわゆる世迷言だと思ったんだが、今の話で、もしかしたら事実だったんじゃないかって。雪弥も覚えてるんだな?あの事。」
祥一朗の心配そうな顔を見返して俺は思い切って楓さんに言った。
「俺も、夢うつつだったから何が何だかわからなかったんだけど。俺、祥一朗が気に入ったから俺のものにするって言ったんです。俺は人の心を喰らう猛獣だって言って。俺、それを言ってる自分をちょっと離れた場所で眺めてる気分でした。何か変だった。もう一人の自分がいるみたいで…。」
楓さんは俺たちの話を聞いた後、腕を組んで目を閉じて考え込んでいた。他人からすれば一笑にするような話だったけれど、俺たちはそれが真面目な話だと感じていた。楓さんは目を開けると俺たちを見つめて言った。
「それは多分、雪弥の持っているというか、覚醒した力のひとつだ。人の心を喰らう猛獣と言ったんだろう?それはまさしく鎖の力の事じゃないか?普通、鎖の力は時間の経過と共に薄まっていくものだ。だが、雪弥、いや、雪豹の家系の力としての鎖は永続的なものだろう。雪弥は祥一朗をまさに自分のものにしてしまったのかもしれないな。」
おれは呆然として楓さんの話を聞いていたが、ハッとして祥一朗の顔を見上げた。俺は意識なく勝手に祥一朗を鎖で縛り付けてしまった。祥一朗は俺に縛り付けられてしまった。
俺の心配を他所に祥一朗は微笑んで言った。
「ずっと雪弥の味方になれるなら本望だよ。」
俺はこれが祥一朗の本心なのか、それとも鎖の力でそう言わせてるのかどちらなんだろうと訝しく思いながらも、嬉しい気持ちが湧き上がって、思わず祥一朗へ抱きついてしまった。ああ、これも鎖の力なんだろうか…?
楓さんは俺たちの様子にちょっと困惑しながらも、あーまぁ後で考えようとぶつぶつ独り言を言いながらモバイルで作業を始めた。俺はしばらくすると抱きついてる自分に気がついて、ハッとして祥一朗から離れようとしたけれど、祥一朗がにっこり微笑んで俺を離さなかった。
結局あいつらが来るまで、俺たちはこんな感じで居たんだ。後から考えるとほんと俺ってどうかしてた!
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