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恋心**言えない想い(1)
「ただいま」
木枯らしが吹く風に当てられて、冷たくなった手をこすりながら、5階建てのマンションの螺旋階段をグルグル上って4階の玄関のドアを開けた。
辞書や教科書。友達から借りた少年漫画やらが入った大きな学生鞄を廊下にドスンと置いた。
そういえば今日は雅さん大学は3限までって言ってたっけ……。
雅さんのことを考えながらスリッパに履き替えようと靴を脱いだ。
「サクラ、お帰り。ちょうど良かったわ。雅くんのところに夕飯のおかずを持って行ってあげてちょうだい」
ぼくの思考が雅さんに染まっていた矢先、リビングにいる母さんから聞こえた好きな人の名前にドキンと心臓が跳ねた。
「どうして?」
今すぐ雅さんに会いたいって思っているけれど、跳ねる心臓をなんとかしたくて照れ隠しで言った咄嗟の抗議。ここに母さんがいなくてよかったと、ちょっぴり熱くなってしまった頬をなんとかしたくて外気に触れていた冷たい手で押さえ込む。
「外にいたついでなんだからいいじゃない。今日から一週間、雅くんのご両親は旅行に行ってるでしょう? しっかり者の雅くんだから大丈夫だとは思うけれど、アルバイトだけじゃなくって資格のお勉強もしているっていうじゃない? 一週間、ご飯三食作るのも大変だと思うのよね。さあ、文句言わずに行ってきて」
ぼくの気持ちを知らない母さんは、小鍋を持ちながらスタスタと足早にやって来る。ズイっと前に出された片手鍋からはクリームシチューの匂いがした。
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